「大人の発達障害」は精神的な“自立”で克服できる

社会

公開日:2016/4/26


『発達障害の自分の育て方』(岩本友規/主婦の友社)

 それなりに普通に生徒・学生時代を過ごし、就職活動もまあまあスムーズに進み、幸いにも正社員採用を勝ち取る。緊張しながらも社会に出て、忙しい社会人生活に慣れてきたころに、なんとなく仕事にストレスを感じ始め、そのうち休みがちに。病院で診てもらうと、自分には縁がないと思っていた「発達障害」の診断。一気に、将来の見通しが暗くなる…。

 『発達障害の自分の育て方』(岩本友規/主婦の友社)の著者は、このように、大人になってからいきなり「発達障害」であることを突き付けられた一人。本書によると自閉症、ADHD、アスペルガー症候群、学習障害といった発達障害の日本人は、全人口の約6%もいる。本書の著者のように、社会人になってから突然、発達障害の特性に苦しめられる人はそれほど稀有ではないのかもしれない。自覚していないだけで、「仕事がたまらなくツライ」と感じている潜在的な発達障害の人もいそうだ。

 本書の著者は転職すること4回、30歳を過ぎて発達障害(精神障害2級)と診断され、一時は電話番すらできないほどの困難に苦しんだものの、その症状を改善。グローバルカンパニーの需要データ分析・プランニング職へ転職し、現在までに二度の個人優秀賞を所属の部署で表彰されるまでになった。その具体的な改善方法が本書で紹介されている。

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 本書によると、「大人になってから気づく発達障害」における最大の問題は、発達障害との付き合い方がわからないために仕事などで過剰にストレスを溜めてしまい、体調を悪くしたり、うつ状態に陥ってしまうなどの二次障害を発症してしまうこと。そこで、ストレスをできるだけ溜めずに発達障害とうまく付き合っていく術が必要となってくる。本書によれば、その術とは「精神的に自立すること」だ。

 本書がいう「自立」とは、次の2つを指す。一つは「周囲の世界と自分の世界を分けて考えられること」。そして、もう一つは「自分の世界から周囲の世界の影響を取り除けること」だ。

 発達障害だと自覚している人は、とかく周囲からマイナスの影響を受けやすく、ネガティブマインドのスパイラルに陥りやすい。例えば、上司から「そんなやり方じゃダメだ」とやり方を押しつけられた場合。発達障害の人は「自分が悪い」「自分が発達障害だから…」と自分のせいにしてしまいがちだ。しかし、「じつは上司の考え方のほうがダメ」という場合もあり得る。そして、視野を広げれば「上司の考え方はどうせ自分でコントロールできるものではない。だったら、それはそれとして、自分の考え方を大切にするのもアリだ」という考え方もできそうだ。本書によれば、2つの「自立」で、このような多様な考え方ができるようになる。

「自立」するための具体的な方法がいくつか紹介されているが、その中でも本書が勧めているトレーニングが「多読」。「どんなジャンルでもいいので、自分がぐっと引き込まれるくらい興味があり、面白いと感じる本」をたくさん読むことで、本の中の世界をイメージする力が強化される。それは、他者の世界(心の中)をイメージする力に繋がり、自分の世界と分けて考えられるようになる。本が苦手な人は、「たくさんの人と会って会話をする」「講演を聞く」「ワークショップイベントに参加する」など、実体験を通して得られるような情報を身につけると良いようだ。

 多読だけでなく、読書会に参加するのも効果的だという。本を読み、他者の思考の動きを想像しながら本の紹介文を考え、発表することで、さらなるイメージ力が身につけられる。「認知行動療法」に近いものがあるかもしれないという、この多読。著者は、初めた当初は月に1〜2冊だった読書のペースを加速させ、年間200冊の多読習慣を身につけられたころに、ストレスに強い体質が出来上がっていたことに気づいた、と述べている。

 さらに本書は、「自立」することで、「再び夢を追う」ことも可能だとしている。人には仕事の合う合わないがある。初めから天職に就けている人は、ごくわずかだ。シビアな条件が付きまとう発達障害の人には、なおさらだろう。本書は、「自立」がすべての発達障害の人の自信を取り戻させ、まだ出会っていない天職を引き寄せられるよう願っている。

文=ルートつつみ