「幸せな人生」ってなに?『ちょっと今から仕事やめてくる』の作者が送る人間応援賛歌

文芸・カルチャー

2016/5/6

この世に悩みのない人間はいない。仕事や対人関係の悩みはもちろん、自宅と職場を往復するだけの毎日に「なんてつまらない人生だろう」と、漠然とした焦燥感を抱いている人も多いのではないだろうか。このまま歳を重ねてゆき、いつかあの世に旅立つときに、果たして自分は「悔いがない人生だった」と言い切れるのか、と。

そういった様々な悩みに対して、ひとつの答えを示してくれる作品が、今回ご紹介する『ヒーローズ(株)!!!』(KADOKAWA/メディアワークス文庫)だ。著者は、前作『ちょっと今から仕事やめてくる』で、ブラック企業に勤める主人公の悲喜こもごもを描き、多くのサラリーマンから共感を呼んだ北川恵海氏。そんな「人生応援ストーリーの伝道者」ともいえる北川氏が、本作では「どんな人生が一番幸せなのか?」をテーマに、誰もが抱きがちな悩みに対して前向きな回答を示してゆく。

主人公は、コンビニのアルバイト店員・田中修司(26)。あるとき、同僚の大学生から「知り合いがやってる割のいい仕事」の手伝いを頼まれ、そこから平凡な毎日が一変する。「君もヒーローになれる!」という胡散臭いキャッチコピーに戸惑いを感じつつも、つい先日にシフトを変わってもらった負い目から、「一週間だけ」という条件つきで渋々引き受けることに。向かった先のうす汚い雑居ビルでは、ちょっと言動のおかしい社長や、その場に似合わない初老のジェントルマンが待ち構えており、さらに不安を募らせてゆく田中。肝心の業務内容も知らされないまま、最初の仕事として超高級ホテルの一室に連れて行かれるが、そこで思いもよらぬ人物と遭遇して……!?

本書の大きな魅力のひとつには、「バラエティに富んだキャラクター」が挙げられる。スランプになると発狂ゴッコをしてストレスを発散する人気漫画家や、「清楚系」で知られているのに素顔はワガママで高飛車な売れっ子女優など、クライアントも曲者ぞろい。特に、会社の先輩のチャラ男・ミヤビの底抜けに軽いテンション&トークには、翻弄される田中も含めて、誰もが吹きだしてしまうに違いない。

しかし、ここで注目しておきたい点がひとつある。実は、そんなひょうきんなキャラクターたちが、それぞれデリケートな悩みを持っているということだ。「自分には何の才能もない」「自分の替わりなんていくらでもいる」というアイデンティティの喪失から、「過去に友人を傷つけてしまった」という激しい自責の念、「生きるのが辛い」といった漠然とした焦燥感まで、誰もが身に覚えがあるような悩みを、本書のキャラクターたちも抱いているのだ。

だからこそ、本書は読み進めていくと、キャラクターたちがそれぞれの悩みを克服したり、自分なりの答えを見つけたときには、まるで我がことのように嬉しくなってしまう。そして、知らず知らずのうちに、自分自身が抱いていた心の重荷が「フッ」と軽くなっていることにも気づかされるだろう。本作は悩みの多い人はもちろん、他人との繋がりを諦め、生きる自信を失っている人にこそ、ぜひとも読んでいただきたい一冊だ。

文=西山大樹(清談社)

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