過ちを犯すことは悪なのか? ベストセラー作家パウロ・コエーリョの新作テーマは「不倫」

文芸・カルチャー

公開日:2016/5/6

 今年は何かと「不倫」が話題になる。それは洋の東西を問わないようだ。

 『星の巡礼』『アルケミスト』『ベロニカは死ぬことにした』など世界的ベストセラーを次々と放つブラジル人作家パウロ・コエーリョの最新作『不倫』(KADOKAWA)が発売された。

 同書は2014年にブラジルで出版されて以降、世界各国で翻訳され、すでに300万部を超える大ベストセラーとなっているが、その翻訳版が今年発売されるというのは何ともタイミングが良いというか、不思議な巡り合わせを感じざるをえない。

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 タイトル通り、同書のテーマはずばり「不倫」。主人公のリンダはスイスのジュネーブに住む三十代の女性で、容姿端麗、優しく裕福な夫、二人の子ども、ジャーナリストとしての恵まれた仕事と幸福を絵に描いたような生活を送っているが、とある取材を機に自分の人生に疑問を持つこととなる。自分は人生に危険を冒すことを恐れ、日常生活に追われてすべてに鈍感に。気がつけば、結婚生活にも情熱は感じられない。日々の感動も喜びも消え去り、この孤独感はだれにも理解してもらえない、とリンダは絶望し始めていた。

 そんなとき、リンダは高校時代の元彼ヤコブと再会する。大人になった彼は、政治家として出世街道を歩んでいたが、実はリンダと同じような孤独を抱えていた。ヤコブはリンダに問いかける。「きみは幸せなのかい」と。その一言がきっかけで、リンダは刺激を求め危険な道に足を踏み入れる――。

 コエーリョはなぜ絵に描いたような背景を主人公に与えたのか? また本書には多くの登場人物が出てくる割に固有名詞は主人公とその愛人、そして愛人の妻しか明かされない。リンダの夫や子供たちも一度も名前が出てこないが、それははなぜか? 作者が隠したであろう意図を探りながら読み進めていくと、その深さに気づかされて面白い。

 コエーリョは言う。「悪いのは過ちを犯すことではなく、それによって硬直してしまうことだ」。満たされた人生を送りながら満足できないのが現代人であり、その不満から様々な過ちを犯してしまうものだが、彼はそれを「満足してしまったら、進化はない。不満があるからこそ、人は前に進むのだ」と肯定的にとらえる。

 こと「不倫」に関しては、海外でもナイーブな問題で、このようなコエーリョの考え方は批判も決して少なくなかったようだが、絶賛する読者もそれ以上に多くいることを考えると、現代人の心の琴線に触れるものが、この作品にはあるのであろう。

 「不倫」が話題になっている今だからこそ、ぜひ読んでおきたい内容だ。

 
◆世界各国の『不倫』に対する書評

・「実存の不安、裏切り、結婚生活における性の罪についての魅惑的な物語」ジュリア・M・クレイン、シカゴ・トリビューン(アメリカ合衆国)

・「引用したくなる言葉の数々と普遍的な魅力で世界中の読者に読まれているパウロ・コエーリョ——個人のドラマと普遍的な問いが織り合わされた物語で読者を惹きつけてやまないコエーリョ作品最大の魅力はその「哲学的」な性質にある。」エヴァ・ズーバー、ハフィントン・ポスト(イギリス)

・「危険な愛、そしてもっと危険な人生。」ソウル新聞(韓国)

・「感情の言語、超常的な世界が垣間見える物語、そして自己啓発はこのブラジル人作家に特有のものだ」パスカル・トゥルニエ、パリジャン・マガジン(フランス)

・「『不倫』は重苦しい作品だが、同時に読者を勇気づけてくれもする」ノヴァ・トリブナ・オポルスカ(ポーランド)

・「抑うつ、度重なる不倫、結婚生活といったデリケートな問題を扱いながらも、言葉の魔術師コエーリョらしい神秘主義が散りばめられている」オ・グローボ・エクストラ(ブラジル)

・「不幸せな妻、奔放な愛人。『不倫』はわれわれを驚かせる作品だ。たとえ作家自身は「不貞が幸せをもたらしてはくれない」と語っていたとしても。」オッジ(イタリア)

 

パウロ・コエーリョ 不倫

『不倫』

パウロ・コエーリョ

世界的ベストセラー作家の刺激的な新作! リンダは仕事にも家族にも恵まれ幸せに暮らしている。しかし自分の中の深い悲しみと不満に気づいてしまったとき、政治家となった高校時代の元彼、ヤコブと再会。リンダは危険な道に足を踏みいれていく……。

  

パウロ・コエーリョ

【著者プロフィール】

パウロ・コエーリョ(Paulo Coelho)
1947年ブラジル、リオデジャネイロ生まれ。現代において最も影響力のある作家の一人。ブラジル文学アカデミー会員。著作の多くが世界的ベストセラーとなり、80か国語に翻訳され、これまで170か国以上の国々で1億9000万部以上を売り上げた。フランスのレジオンドヌール勲章を受章している。2007年には国連ピースメッセンジャーに指名された。また彼のソーシャルメディアは記録的なフォロワー数を誇っている。