最も輝いた“聴く本”に選ばれたのは、「映像化できないように」書いたあの作品!【第6回オーディオブックアワード】

文芸・カルチャー

2016/5/10

 手元から、目は離せなくても耳は空いている。そんなときに便利なのが“耳で読む本”オーディオブックだ。今では通勤や移動中のビジネスパーソンだけではなく、料理や手作業中の主婦、ランニングやウォーキング、バスタイム中の若者などさまざまな立場の人がスキマ時間の有効活用に役立てている。

 国内最大手のオーディオブック配信サービス「FeBe(フィービー)」を手がけているオトバンクが、4月13日に「第6回オーディオブックアワード」を開催した。

 オーディオブックアワードとは、FeBe会員15万人を対象とし、その年に聴いた作品の中から投票で選ばれる、オーディオブックの表彰式典。各部門で最も票を集めた作品に贈られる部門大賞のほか、オーディオブックにおける新たな取り組みや興味深い企画を実施した作品を表彰する「企画賞」も用意されている。中でも、「最も輝いたオーディオブック」に贈られるのが「オーディオブック・オブ・ザ・イヤー」。

 第6回オーディオブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのは、川村元気著『世界から猫が消えたなら』(マガジンハウス/小野大輔、氷上恭子、ふくまつ進紗:出演)。30歳の主人公「僕」の前に悪魔が現れ「あなたは明日死ぬ」と突然の宣告。しかし「世界から何かをひとつ消すことで、1日寿命を延ばしてあげよう」と悪魔から取り引きを持ちかけられ、ついに……というストーリー。

 120万部を超えるベストセラーでもあり、人気声優の小野大輔さんが主人公・悪魔・ナレーションを演じ分けたことでも話題となった作品だ。

 実は、著者の川村さんは映画プロデューサー。普段は映画やアニメーションなど映像の制作に携わっている。ところが「小説を書かないか」との声がかかったとき、なんと「絶対に映像化できないことをやってみようと考えた」という。その理由は「“世界から猫が消えた”というタイトルを一文書くだけで、読者の皆さんが『猫がいないとは、どのような世界だろう』と想像できる。そういった文章の良さを活かした作品にしたかった」からだとか。

「一方、この作品を映像にしようとすると、“猫が消えた世界”という設定のため、作り手は途方に暮れてしまう。ストーリーは映画的、でも映像化は難しいというものにしたかったのです」と川村さん。「ところがこれが映画化され、間もなく公開されてしまうんですよね」とほほえんだ。

ストーリーと音声で刺激される想像の世界

 今回、オーディオブックアワードということで、目で読む本と耳で聴く本の相似性について川村さんは「音というのは文章の世界に似たものを持っている」と語り、続けて「文章は読んでその世界について想像でき、音は耳で聴いて、自由に想像できる。それはオーディオブックの魅力なのではないだろうか」と述べた。

 また、主演の小野さんについては次のように感謝の気持ちを表した。

「オーディオブックにしないかと言われたとき、アニメの制作に携わっていたんですが、そこのスタッフさんたちからもダントツ人気の声優が小野さんだった。『黒執事』や『ジョジョ(の奇妙な冒険)』のようなシリアスなものを得意としているのに『おそ松さん』のようにコミカルな役柄まで幅広くこなせる、ということもあり、僕にとっても最適だと感じた。このオーディオブックというコンテンツで最高のパフォーマンスを見せてくれた」

 投票したユーザーからは「どこか儚げで繊細な世界観と小野さんの優しい声が絶妙にマッチしていてとても素敵でした」「すぐ物語に引きこまれ、急かすわけでもなく、じっくり楽しむことができました」「登場人物みんなが魅力的です」「小野さんの演じ分けで、音だけで広がる世界なのに情景が浮かび上がりました」「モノ・人の存在が生きるということを重すぎることなく考えさせられました」といったコメントが多数寄せられており、ストーリーと音という要素が、聴く人の想像力や感性を揺さぶる様子がうかがえた。

 そのほか、「文芸書部門大賞」を冲方丁著『天地明察』(KADOKAWA/羽多野渉、上柳昌彦、柚木涼香、三木眞一郎ほか:出演)が、 「ビジネス書部門大賞」を岸見一郎、古賀史健著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社/小林範雄、市村徹:出演) が、「企画賞」を 待田堂子著、山本寛監修『小説版 Wake Up, Girls! それぞれの姿』(田中美海、高木美佑、永野愛理、青山吉能、奥野香耶、山下七海、吉岡茉祐ほか:出演)が受賞し表彰された。

取材・文=渡辺まりか