コミックが旅をする!? 前代未聞の企画「旅するコミック」はいかにして生まれたのか?【インタビュー】

マンガ

公開日:2016/5/11

 2016年4月7日、前代未聞の企画がスタートした。その名も「旅するコミック」。これは、「別冊少年マガジン」(講談社)で連載中の『進撃の巨人』5000万部突破&最新19巻発売と『ふらいんぐうぃっち』のTVアニメ化を記念したもので、各100冊ずつ製作された特製コミックが人から人への手渡しで日本全国回し読みリレーをするという企画だ。

 コミックが旅をする―。そんないまだかつてない企画はどのようにして生まれたのだろうか。『進撃の巨人』『ふらいんぐうぃっち』の担当編集である川窪慎太郎さんにお話を伺った。

川窪慎太郎さん

プロモーションは“読者が楽しめること”を重視

 これまでキャッチコピー総選挙や関西弁版の配布など、様々なプロモーションを行ってきた『進撃の巨人』。これらの企画を考える際に重視しているのは、“読者が楽しめること”だと川窪さんは語る。

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「読者の皆さんの口コミや書店員さんの凝ったディスプレイなどのおかげで、『進撃の巨人』はここまでくることができたと思っています。いわば、読者の皆さんや書店員の方々に育てられた作品なんです。ですので、お力を借りつつ皆さんも楽しめる企画を、と考えています。また、ここ数年間でマンガを取り巻く環境が変わってきていて、「進撃の巨人ごっこ」などが読者の間で流行したように、ただ読むだけでは終わらない存在になっています。僕たち作り手側は、どれほど皆さんが楽しんでいただけるようなものや話題となるようなものを考えられるか、求められるようになってきているんです」

 今回の企画「旅するコミック」もそんな思いが根底にある。そしてこの企画が生まれるきっかけとなったのは、『進撃の巨人』のHPやアプリの制作に携わっている講談社の岩田さんからの提案だという。

「10年くらい前に、米ドル札のシリアル番号を専用サイトに登録することで、その紙幣の行方を追跡できるサービスがアメリカで大流行していたのを思いだし、その遊びをヒントに、マンガを読者の間で旅をさせるのはどうかと提案してきたんです。今までのファンはもちろん、読みたいと思いつつも読めていなかった人、全く知らない人など、より多くの人に2作品の魅力を伝えることができるのではと思い、チャレンジすることになりました」



参加者を楽しませるいくつものポイント

「旅するコミック」特設サイトでは、それぞれのコミックの現在地や移動距離、参加者のコメントなどを見ることができる。また、手元にコミックが届いたら専用サイトにアクセスし、持ち主とコミックのおおまかな位置情報を登録するとオリジナルの画像がもらえるなど、参加者を楽しませるポイントがいくつもある。

「ただ本を受け取って読んで、次に回すだけでは面白くないし、すぐに飽きられてしまうなと思ったんです。だから現在地や移動距離を見られるようにしたり、15~20種類のオリジナル画像の中からランダムでプレゼントしたり、特製コミックに直接感想を書けるようにしたりなど、“読む”以外の楽しみを増やしたんです」



 そしてもう一つ、参加者の大きな楽しみとなっているのは、それぞれ収録されている特別編だ。単行本1巻の内容とともに、『進撃の巨人』にはボツネームが、『ふらいんぐうぃっち』には津軽弁版が掲載されている。

「ボツネームを掲載するなんて漫画家さんは抵抗するんじゃ…と皆さん思うでしょうが、諫山先生はむしろ面白がっていましたし、ご自身で久々に見て楽しんでましたね(笑)。『ふらいんぐうぃっち』は青森県弘前市が舞台なので津軽弁版を掲載したのですが、津軽弁に翻訳するのが大変でした。青森県の女子高生で津軽弁を研究している子たちにまず翻訳してもらい、監修を経てやっと完成しました。この企画に関しては、諫山先生、石塚先生ともに快く承諾していただき、お二人からも旅立っているんですよ」

30冊くらいでも戻ってくれたら嬉しい(笑)

 企画の起点となるスタート走者の募集には、10~20代を中心に約1,100通の応募があったそうだ。中には60代の応募もあったり、「関西は私に任せてください!」「1巻から今まで、周りに広めてきたという自負があります!」など熱い意気込みが多く寄せられたりなど、ファンの作品に対する強い思いが感じられたという。そして企画がスタートすると、Twitterを中心に大きな盛り上がりを見せている。

「お手製のしおりやブックバンド、ペンをつけたり、ご当地おみやげを入れて次の人へ回したり、僕たちが想像していたよりも、皆さん思い思いにこの企画を楽しんでくれているんですよ」

 6月20日まで続くコミックの旅。期間が終了すると全国にある特製コミックは回収され、その後諫山先生、石塚先生それぞれの元へ届けられるという。

「正直、9割方失敗するだろうなと思っていて、30冊くらいでも戻ってくれたら嬉しいですね(笑)。しかし、何冊戻ってきたから成功というわけではなく、少しでも多くの人に2作品の魅力を知っていただけたり、「こんな企画やってるんだ、面白いな」と思って話題になってくれたりしたら十分だと思っています」

取材・文=編集I

⇒「旅するコミック」公式サイト
⇒「旅するコミック」公式Twitter