”食べていいよ”って、そういう意味じゃ……。生贄少女が魔王の妃に? 新”人外モノ”『贄姫と獣の王』に胸が締めつけられる!

マンガ

公開日:2016/5/20


『贄姫と獣の王』(友藤 結/白泉社)

 『美女と野獣』を筆頭に、古くから“人外モノ”は乙女心をくすぐる一つの定番です。日本作品には『夕鶴』なんかがありますが、ちょっと古すぎるかな。悲恋だしね。いずれにせよ、人ならぬものとの恋が漂わせる禁断の香りと切なさに、惹かれてやまない読者がいるのは事実。かくいう私もそのひとりで、今回ご紹介する『贄姫と獣の王』(友藤 結/白泉社)はファンタジー好きの心もくすぐる人外モノの一級品でありました。

 かつて人間を喰らった魔族と、彼らを統べる異形の王。人間は自分たちの身を守るため定期的に生贄を差し出します。物語はこの誰もが恐れる王様と99人目の生贄少女・サリフィの出会いから始まります。

 強い牙と鋭い爪をもった獣の風貌。ところがこの王様、実は人間とのハーフだそうで。生贄として命を失うはずの夜、王様は人間の男姿であらわれます。これまでも、生贄を喰らうふりをして、自らの身体を傷つけ血を流し少女たちを逃していた王様は、恐ろしい獣などではなく、孤独を抱えるひとりの異端者。そしてサリフィもまた、生贄にするためだけに拾われ育てられた悲しき少女。2人の心は通じ合い、王様はサリフィを妃に迎えることを決め、そしてサリフィは彼にレオンハートと名を与えたのでした。めでたし、めでたし。

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 ……などと簡単に事が運ぶはずもなく。

読み切りで掲載されたこのお話の続きが連載となり、このたび単行本化されたというわけです。そりゃそうだ。だって気になりますもん。周囲の魔族がサリフィの存在を認めるわけがありませんし、対外的には両親ともに魔族とされている王様がどうして半分だけ人間なのかも明かされていませんし、謎も問題もてんこもりの状態で読むのをやめろというほうが無茶。実際、1巻ではサリフィが魔族の世界の瘴気にあてられ倒れたり、魔族の嫁候補があらわれたりと、壁が次々と立ちはだかります。

どんな時も、レオのためになりたい、邪魔になるくらいなら捨てられても食われてもいいと思うサリフィの健気――というよりいじましい姿にぐっとくるんですよねえ。誰からも望まれていなかった、両親と慕っていた人から死ねと命じられた彼女は、最初からすべてをあきらめている。レオのことが好きで、一緒にいたくて、誰よりもあたたかさを求めているのに、最初からなにも望んでいない。そんな彼女が、心の同類であるレオとともに癒され、感情の広がりを覚えていくさまに、きゅっと胸が締めつけられるのです。

美しく繊細に、かつ幻想的に描かれる世界でこの2人がどのような道を歩んでいくのか。頼むから幸せになってくれよと願いつつ、今後が楽しみでなりません。ちなみにレオ、2人きりの時は人間姿でいちゃいちゃしてくれるのかと思いきや、めったに姿を変えないんですよね。そのレア感も、いい……。「食べていいよってそういう意味じゃないんだけどな……」とか呟くサリフィの台詞もすごくよかった……。いろいろ心のツボが刺激されまくりの作品です。

文=立花もも