ポジティブなんてクソくらえ! ニーチェやニートの“絶望的名言”から学ぶネガティブのすすめ

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

「今日も、働いて食べる。明日も、働いて食べる。
結局それが一生続くだけだとしたら、そこにどんな素晴らしいことがあるのだろう?」
ゴーリキー/作家、劇作家

自由な時間を謳歌できたゴールデンウィークはおわり、またひたすら働く日々が始まった。希望が見いだせず気分が落ち込む五月病に陥っている人は多いのではないだろか。でも、長期休暇明けはたいてい仕事がたまっている。休んでなんかいられない。

「はっきり言って、この世に『従業員に優しい会社』なんて存在しません」
城繁幸/人材コンサルタント

「働けば社畜、働かなければ家畜」
スブリ=フロネル/会社員

とかくポジティブ思考が賞賛される昨今。やる気に満ちあふれ、明るい未来を語ることが尊ばれる。でも、本当にみんなそんなにいつも元気いっぱいなの? 夜、部屋の片隅で膝を抱えて三角になっていたらおかしいの? そんな疑念をトルネードなみにぎゅいんと吹き飛ばし、ネガティブ思考をがっつり肯定してくれるのが、『絶望手帖』(絶望名言委員会:編集、死後くん:イラスト、発案:家入一真/青幻舎)だ。ニーチェなどの有名人からニートなどの無名人まで、古今東西ありとあらゆる人物の心の闇をのぞかせる奥深い名言を集めた一冊である。

「人間よりは金銭の方がはるか頼(たのみ)になりますよ。頼にならんのは人の心です!」
尾崎紅葉/俳人、作家

上記は小説『金色夜叉』の主人公・貫一のセリフ。婚約者のお宮が大富豪の男に見初められたことで、貫一は婚約を破棄されフラれたのだ。なるほど、ふわふわと拠り所のない恋愛などより働けばお金になる仕事の方がまだ裏切らないかもしれない。一方、結婚適齢期を過ぎた女性読者なら、若いお宮を羨みこう思うかもしれない。

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「いい男はとっくに結婚している」
S子/広告代理店勤務

「ふざけるな!」と思った未婚の男性諸君に、AV監督のこの言葉を送ろう。

「なぜモテないかというと、それは、あなたがキモチワルいからでしょう」
二村ヒトシ/AV監督

慰めではないが、恋愛ではこんなことも起こりうるらしい。

「もうエロいことすら面倒くさい」
福島剛/ピアニスト

そう、なんだかもうすべてが面倒くさいことがある。そもそも、できれば体力や精神力をすり減らしてまで頑張りたくない。世間の常識にならって全力で取り組むことが立派なんだと自分に言い聞かせたとしても、そして周囲の人々に対してそう口にしたとしても。本音ではなるだけたくさん怠けたいと思っていないだろうか。

「雨の日はだるいし夏は暑くてだるいし冬は寒くてだるい。朝は明るすぎてだるいし夜は暗すぎてだるい。地球上どこに行ってもだるいはつきまとってくる」
pha(ファ)/作家

「逃げ回ること風の如く
引き篭もること林の如く
他人を批判すること火の如く
たまの外出は陰の如く
働かざること山の如く
親子いがみ合うこと雷(いかずち)の如し」
勝山実/ひきこもり名人

後者はもはや「何か問題でも?」と言いたげな態度が見え隠れする。だが、あまり反感を覚えない。むしろなんだか気持ちがよい。

「もし、ある人が自分の不幸話を始めたら、
そこにはある種の楽しみがあると考えて差しつかえない。
まったくの惨めさしかないとしたら、そもそも口にしないだろうから」
サミュエル・ジョンソン/詩人、批評家

「ココロというものは、穏やかなシアワセという栄養分よりも、
劇薬のような刺激が一気に得られる不幸や不愉快さという餌を、好んでしまうもの」
小池龍之介/僧侶

もしかすると不幸に甘えているだけ? そういえば、幼い頃いじけることで大人たちの関心を引き付け、気持ちを理解されたのかどうかはわからないが、優しくしてもらった。そうやって受け入れてもらった。自分が大人になった今も、ときどき同じことをしているような気がする。いじけまくって、心の暗闇の奥の奥まで自分を引きずり込み、そんな状態を客観的に見ている。「こんな可哀想な私、どうよ?」と自分に訴え、「うん、とっても可哀想」と自分を慰めている。

ネガティブ思考が人に心の栄養を与える。勇気を与える。活力を与える。そう考えてみてはどうだろう? 明日をまた生きていくために、最後は太宰治の最高の名言で締めくくりたい。

「生れて、すみません」
太宰治/作家

文=林らいみ