声優は歌やダンス、顔出しが必須!? 人気アニメ作品の音響監督が語る「求められる声優」とは

マンガ

公開日:2016/5/12


『現場で求められる声優 ~「ダイヤのA」「キングダム」「最遊記」の音響監督高桑一が語る~』(高桑一/くびら出版:発行、サンクチュアリ出版:発売)

 アニメが好きで毎日観ているという人ならば、現在放送されている本数がかなり多いことを実感できるはずである。それもそのはず、2000年以前は100本前後だった作品数が、現在では軽く200本を超えているのだ。そして当然、本数が増えればそれに関わるスタッフの数も増えていく。スタッフにもさまざまな職種があるが、その中でも花形といえるのが「声優」だ。子供たちの「なりたい職業」で「芸能人」は常に上位に入るが、その中で声優の占める割合はかなりの数になるという。

 ゆえに声優の数も年々増え続け、某雑誌の声優年鑑に掲載される人数は1000人以上にのぼり、正確な実数は把握不可能だが総数は1万人以上になるだろうといわれている。それだけに競争はとても激しい。新人だからといって失敗を大目に見てもらえるような、甘い職業ではないのだ。それを承知の上でなおも声優になりたいというのならば、やはりどうすれば業界で生き残れるかを知りたいと思うはず。『現場で求められる声優 ~「ダイヤのA」「キングダム」「最遊記」の音響監督高桑一が語る~』(高桑一/くびら出版:発行、サンクチュアリ出版:発売)は、現役の音響監督・高桑一氏(※「高」は正式には「はしごだか」)が自身の体験談などを元に、声優として生きていくにはどうすればいいのかを語っている。

 声優がアニメなどで役を得るには主にオーディションを受ける手段があるが、氏によれば絶対に受かる方法論はなく、むしろ落ちて当たり前との気持ちで臨むのがよいという。例えば音響監督によっても相性があるそうで、自分が出した指示の微妙なニュアンスをちゃんと理解してくれる声優を選ぶ傾向がある模様。つまりいかにベテランの声優でも、音響監督との相性が悪かったり、作品のニーズに合わなかったりすれば、オーディションには落ちるということなのである。だから一度の失敗でそれを引きずるよりは「よくあること」として受け流したほうが、精神衛生的にもよいといえそうだ。

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 また本書では座談会として高桑氏のほか、現役声優である堀内賢雄氏と浪川大輔氏の鼎談が掲載されている。長く声優を続けている堀内氏は、かつては若手が少なく新人を育てる風潮があったが、現在は声優の数が増えすぎて1回1回が常に勝負だと説く。また多くの作品に出演する人気声優の浪川氏は、重要なのは対応力だという。現場で台詞をしゃべっている途中で別の声を求められることも多く、そのつど瞬間的に対応していかなければならないのだ。そしてふたりの共通認識としては、あらゆる場面が常に勉強で、多くの経験と引き出しを持っておくことが上達の秘訣ということだった。

 そして高桑氏は最近の傾向として、歌やダンス、顔出しでのイベント出演などが付帯条件としてあるオーディションが多いという。そしてそのいずれかでも不可能なことがあると、その時点でオーディションすら受けられない。もちろん容姿や歌唱力の問題などあるだろうが、それでもやらなければならないのだ。「努力で埋められるところは埋めることを惜しまない」ということを、肝に銘じておくべきであろう。

 最近ではアイドルを題材にしたアニメに参加した声優は、その劇中さながらのライブを実際に東京ドームなどで行なったりする。やっていることはアーティスト活動と大差ないといっていい。その上で声優活動を全うしなければならないのだから、これは生半可な覚悟ではやっていけないだろう。それでも信念を持って鍛錬を続けていけば、必ず誰かに伝わるはずである。「現場で求められる」とは、そういった努力を惜しまない人なのだ。テクニックよりも自分の仕事に真摯であること、それが声優に限らず仕事で必要とされる最も大事な部分だといえる。

文=木谷誠