妊娠は夫婦の“共同作業”。不妊治療へ挑んだ2人の記録&妊活男性たちの本音

出産・子育て

2016/5/13


『俺たち妊活部「パパになりたい!」男たち101人の本音』(村橋ゴロー/主婦の友社)

 人生にはいくつかの局面がある。ひょんなきっかけから誰かと出会い、恋愛を重ねるうちに結婚するのもそのひとつだ。そして、順番こそ前後する場合もあるが、結婚の先に待ちかまえるのが出産という局面である。

 昨今では「妊活」という言葉もある。妊娠のために手を取り合う夫婦の共同作業ともいえるが、その多くは、女性からの視点で伝えられる機会が少なくない。行政のホームページを見ても、妊活の相談窓口は女性を対象とするものが目立つが、本来、妊娠というのは旦那と妻それぞれが理解し合わなければなしえない“共同作業”でもある。

 では、なかなか伝わることのない男性からの声はどうだろう。その疑問に真っ正面から向き合った書籍が『俺たち妊活部「パパになりたい!」男たち101人の本音』(村橋ゴロー/主婦の友社)である。

 赤裸々な声が寄せられた本書には、不妊治療の経験ある男性たちの本音が詰まっていると共に、みずからを“借金まみれのどん底ライター”と称する著者が、奥さんと二人三脚で励んだ出産までのエピソードが込められている。

 著者は1972年生まれのライター。奥さんのりえさんと結婚したのは、32歳になったときだった。当時、20代の頃から積み重なった400万円にものぼる借金を抱えていたが、お先真っ暗な将来を素直に打ち明けたところ「いくらあるの? あたしが返してあげるから」と了承したりえさんはこう続けたという。

「あなたの子どもが産みたいの」

 やがて、結婚から7年。たがいに同い年で39歳となってからも、いっこうに子どもができる気配はなかった。旦那の借金を肩代わりしてくれたりえさんの唯一の願い、著者の子どもを産みたいという願いすら叶えることのできない負い目は、年を重ねるごとに大きな十字架としてのしかかっていた。

 そして、ある晩の話である。りえさんと共に近所の沖縄料理屋へ足を運んだ著者は、こう語りかけた。

「言いにくいんだけどさ、俺ら、本当に欲しかったもの、あったよね。毎日忙しくてさ、ふたりとも見てみないふりして、ずっと誤魔化してきたこと、あるよね。俺、諦めたくないんだ。逃げたくはないんだ。りえちゃん、俺、真剣に子づくりへ向き合おうと思うんだ」

 涙ながらに「ありがとう……」とりえさんは返答した。こうして、著者とりえさんの不妊治療が始まった。

 本格的に不妊治療が始まったのはたがいに40歳のとき。2012年の梅雨頃から、りえさんがクリニックへと通い始めた。初めにすすめられたのは、排卵日に合わせて決め打ちをするという「タイミング療法」だった。

 奥さんが基礎体温表を付けて、旦那と妻がたがいに相談し合いながら子づくりに励むというもっとも基本的なもの。ただ、ある意味では義務的になりかねないセックスに萎える男性も少なくない。

 じつは、不妊治療を開始するまでの1~2年のうちは、負い目から年に2~3回とセックスが激減していたという著者は、医者からの「やれ」という指示を幸いにも前向きに捉えることができた。しかし、3ヵ月が過ぎても妊娠にいたらなかったために、医師から「次にステップアップしましょうか」とすすめられた。

 次なるステップは「人工授精」だった。自慰行為で採取した精液を病院で洗浄、濃縮して、細長いカテーテルで女性の子宮へ注入する方法。リビングで待つりえさんを思いながら著者は、資料用のエロDVDから熟慮した作品を見ながら、仕事部屋でプラスチック容器へと発射した。

 9月のその日、りえさんと共に著者はクリニックへと出かけた。受付で採取した精液を看護師さんに手渡し、やがて「卵胞の検査をします」とりえさんが呼ばれた。検査を終えた後の待合室では、本来ならば容器だけ手渡せばよいところ、付き添ってくれた著者にりえさんは「ありがとう」と返した。

 その後、ふたたびりえさんの名前が呼ばれた。いよいよ子宮内へ、著者の精子を注入するのである。「頑張ってね」と声をかける著者を振り返るりえさんの表情は、少し不安げだった。

 この日のりえさんの日記には、以下の記述があったという。

丸っこい、幼い字で、ラベルに私の名前と時間を書いてくれていた。
慣れない銀座で30分時間を潰してくれて、
病院でも1時間半も一緒に待ってくれた。
正直、もうそれだけでいいと思った。
きっと結果が伴わなくても、これから二人だけでも大丈夫だと思った。

 この日から4ヵ月、毎月のように著者とりえさんは人工授精へ励んだ。しかし、結果は叶わなかった。気がつけば2013年を迎えようとしていた……。

 最後に、結婚はゴールではなくスタートだというのは、本稿の筆者からの思いである。じつは、本書を選んだのは自分が今まさに妻と相談し合いながら“妊娠”へ挑み始めたからだった。

 先日、男性の性的な悩みを聞いてくれるクリニックへと足を運んだが、20代後半~30代前半までの既婚男性の来訪が多いという。理由は本稿にもある「タイミング法」からのプレッシャーで、奥さんとの行為に怯え、次第に萎えてしまうからだと医師は話していた。

 きっと今、似た悩みを抱える男性も少なくないとは思うが、本書はそんな僕たちの背中をさりげなく押してくれる1冊である。

文=カネコシュウヘイ