ペットの幸せについて、真剣に考えたことがありますか? 人間とペットのよりよい関係とは

暮らし

公開日:2016/5/15


『ドイツの犬はなぜ幸せか(中公文庫)』(グレーフェアヤ子/中央公論新社)

 かつて、我が家でも犬を飼っていた。散歩に連れて行き、餌の管理をし、一緒に遊ぶのは主に私だった。それなりに真剣に取り組んだつもりでいたのだが…。『ドイツの犬はなぜ幸せか(中公文庫)』(グレーフェアヤ子/中央公論新社)を読んで、果たして我が家の犬は幸せだったのだろうか、という思いにとらわれた。

 ペットブームと言われる時代。犬や猫などペットと触れ合うことで心の癒しを得られることは、実際に動物に触れてみると実感できる。ただ、その一方で、人間の勝手な都合で「モノ」のように粗末に扱われるおびただしい数の命があるという裏側を、どれくらいの人が知っているだろうか。人間とペットの「良い関係」を意識して動物に接している飼い主は、どれくらいいるだろう。

「子どもと犬はドイツ人に育てさせろ」ということわざが存在するほど、犬の育て方に関する厳しい取り決めや法律が整っているドイツ。本書では、そのドイツ人の家庭で飼われる雌犬「ボニー」の目を通して、ドイツの犬と家族との関わりや、社会の中での犬の位置づけなどがきめ細かく描かれている。

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 本書を読んでまず強く感じることは、ドイツでは「人と犬が対等である」ということだ。飼い主が犬の立場に立ったものの考え方をする。例えば、「動くものを見ると追いかける」という犬の習性を知らず、駆け出した子どもをボニーが追いかけて怖がらせた場面。日本ならば、まず悪いのは「犬」にならないだろうか? だが、ドイツでは少し違う。「子どもに犬の習性を教えていない親も悪い」という考え方も同時に成立するのだ。飼い主がそんな寛容な柔軟性を持つことで、犬のストレスは軽減する。家族に接するのと同様に飼い主が犬の気持ちを汲み取ることで、攻撃性をコントロールできる賢い犬が育つのだ。

 飼い主が犬の行動やマナーなど、日常の生活態度に大きな意識を置いていることも特徴的な点と言えるだろう。しつけの行き届いた隣家の雄犬が「犬の学校」で訓練していることを知り、飼い主はボニーを犬の訓練学校に入れる。そこでは、犬の訓練と同時に、犬を飼う人間の意識の持ち方も訓練される。例えば、「来い」の練習をする場合は、最初は犬が飼い主の所へ寄ってきそうなチャンスを利用する。そして犬が言いつけに従ったら、どんなにもたついたとしても必ず褒める。最初はできなくても、できた時に褒めることを繰り返せば犬はいずれ「来い」を理解するという。できなかった時に叱ることは「従わない犬」にしてしまうのだ。また、叱る時に手では叩かない、大声で叱らない…など、犬の生態を理解した上での飼い主への指導が行われる。このような犬と人との忍耐強い努力を知ると、「文化の程度がその国で飼われている犬を見れば分かる」という言葉がドイツにあることもうなずける。

 ドイツでは、飼い主に対し厳しい義務が課せられている。例えば「保護者は、犬に社会的接触を持たせるために、1日合計2時間は犬とつきあう時間を設けること」や、「保護者は、1日最低8時間は、犬を視界距離内または呼べば聞こえる範囲に置くこと」などだ。驚くほど詳細な点にまで取り決めが及んでいることが分かる。その他さまざまな規則が本書の中に記されており、「満たされた条件下で犬を飼う」ことへの意識の違いを痛感する。

 本書を読むと、家族同然に犬の気持ちを考え、犬の幸せを叶えることに本気で向き合うドイツ人の愛情の深さや寛容さを感じずにはいられない。それと同時に、犬に限らず「ペットの幸せ」を考える時、どんな視点を持ってペットに接するべきかも深く考えさせられる。犬好きの人はもちろん、ペットを飼っている人、これから飼いたいと考えている全ての人に、手に取ってほしい1冊だ。

文=あおい