援◯を生配信、公共の場で◯◯…読後感は最悪!? “マイナスの共感”を刺激される『奈落の羊』

マンガ・アニメ

2016/5/15


『奈落の羊』(きづきあきら、サトウナンキ/双葉社)

 これでもかと汚い闇を抱いた人間が登場し続ける『闇金ウシジマくん』や、ズバズバと“オンナの本音”が描かれる『臨死!!江古田ちゃん』、はたまた下品さでは他の追随を許さない田中圭一の『Gのサムライ』などなど。この世には様々なタイプの「ゲスい(けどやめられない)」漫画というものが存在する。「白河の清きに魚も住みかねて」ではないが、人間はキレイごとだけでは生きられないというのは、ひとつの真実なのであろう。

 そんなゲス漫画の注目株が『漫画アクション』で連載中の『奈落の羊』(きづきあきら、サトウナンキ/双葉社)である。

 キーワードは「生配信」と「炎上」。物語は趣味の「生配信」で就職せずに生きていこうと目論んだ自堕落な大学生・修二が、ネットカフェ住まいの援交女性・メイと出会ったことから始まる。コミュ障で著しく社会性に劣るメイに食事の提供など生活の手助けをするかわりに、リスナーからのリクエストも含めた無理難題を突きつける修二。彼はメイを“オモチャ”にして番組をつくり、リスナーから金を集めることを思いついたのだ。

「ネタが…オモチャが必要だ」
「コイツら(筆者注*リスナー)のオモチャ」
「ブッ壊しても大丈夫なオモチャが」

 不敵に笑う修二は、這いつくばっての食事、援交の生配信(ただし寸止め)、公共の場での下着脱ぎ強要など、メイに次々と屈辱的な要求を突きつける。抵抗もするメイだが金や食事の魅力、そして修二の詭弁にあらがえず……と、もうこの段階でゲスさ満点。確実に読後感の悪い漫画である。作中で一部のリスナーが見抜いているように、メイには強気だが、実際の修二はヘタレな小心者。イキがれるのは自分より弱い者にだけで、ネットの反応ばかりを気にする最低な主人公である。

 しかし、そんな修二に嫌悪感を持ちつつも、なぜか先が気になり読むのをやめられない。

 今や生活のほとんどにネットが介入し、SNSにまみれた暮らしを送る時代だ。修二を嘲笑しつつも、彼のようなゲスい感情が自分にないかと問われれば、ないと言いつつ、どこか後ろめたさが残る。修二ばかりではない。安全な場所から無責任に修二を煽るリスナーたちにも、自分がいつその立場になってしまってもおかしくないかもと、かすかな不安を覚えてしまう。

 それはネット社会、SNSに対して、我々が心のどこかで抱いている漠然とした不安なのかもしれない。

 たとえばネットの炎上事件。自分は荷担していなくても、炎上のターゲットに対して、炎上させた側と同じような感情を一瞬でも抱いたことはないだろうか。たとえばヤフコメの内容をバカにしつつ、同じようにニュースに食いついた自分の野次馬根性に気づいたことはないだろうか。ネットの世界は、自分がその気になればあっという間に炎上事件などの「当事者」になれる(なってしまう)。ゲスい修二やリスナーのような存在にも、なろうと思えばいつでもなれるのだ。それを我々はもはや肌感覚として知っている。

 漫画に限らず優れた物語の条件のひとつに「共感できること」が挙げられる。その意味で『奈落の羊』は“マイナスの共感”を刺激される漫画なのかもしれない。

 果たして修二とメイの「生配信」はどのような結末を迎えるのか。怖いもの見たさで今後もページをめくってしまいそうである。

文=長谷川一秀