禁断の恋に落ちてしまった姉と弟が辿る、獣道の果てに待ち受けるのは、天国か地獄か?

マンガ

公開日:2016/5/17


『インヘルノ』(マツモトトモ/白泉社)

 決して好きになってはいけない人との恋。それは誰にも言えず、だけど誰かに知ってもらいたい。ただ人を好きになっただけなのに、罪悪感で胸がいっぱいになる。そんな想いを抱えて生きる毎日は、まさに地獄だろう。

 5月に第3巻が発売されたばかりの、『インヘルノ』(マツモトトモ/白泉社)。ポルトガル語で“地獄”を意味する単語をタイトルに冠した本作は、姉弟間の禁断の愛を描いた話題作だ。

 物語は、主人公・更(サラ)のもとに、両親の復縁がきっかけで弟・轟(ゴウ)が戻ってきたところからスタートする。轟との再開は、実に4年ぶり。更は、ちっちゃくて女の子みたいだった彼と、また一緒に暮らせることが楽しみでならない。……けれど、目の前に現れたのは、気性の荒い獣のような男。記憶の中にいた可愛い男の子は、4年の歳月を経て、ひとりの男へと変貌していたのだ。

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 出会い頭から、「さわんなよ」「同じ空気吸うのもシンドイ」と、更を慕う様子を見せない轟。けれどその態度は、反抗期のそれというよりも、「もう限界が近い……」と全身で訴えているかのよう。それもそのはず。轟は、更を“ひとりの女”として見ているから。そして、それは更も同じ。何事にも動じず常に完璧で、まるで聖女のような更も、心の中には獣を飼っている。轟に対して、弟を想う以上の感情を抱いているのだ。そして、第1巻のラストでは、眠っている(フリをしている)轟に、更はキスをしてしまう。

 火がついてしまったふたり。それはもう、誰にも止めることができない。互いの気持ちを確かめるように、けれど決して踏み込まないようにと距離をとってきたふたりも、やがて限界を迎える。更が発した「わたし、もう身がもたない」という言葉をきっかけに、ふたりは正面から向き合い、再び唇を重ねるのだ。これが第2巻のラスト。

 そして、ついに発売された第3巻では、ふたりの関係性はさらにややこしいことになる。轟は自分に想いを寄せているトヨコとの距離を縮めていき、更は後輩の古庄との交際をスタートさせるのだ。互いの本心を隠したうえで。けれど、やはり嫉妬心はごまかしきれない。だからこそ、不安になった時にはキスをし、相手に自分の気配をすり込ませる。それはまるで、獣のマーキングのよう。しかし、彼女・彼氏になれないふたりには、こうやって自分の存在を口移しで残す以外に手立てがない。更と轟は、少しずつ深みにはまっていく。

 姉弟間の禁断の愛。字面だけを見ると、ドロドロの愛憎劇、あるいはエロ満載の作品のようなイメージがつきまとうかもしれない。しかし本作は、そういったイメージとは正反対の作品。少女マンガ畑で活躍している著者による作品なので、清廉さすら漂うタッチで心の動きを丁寧に追いかけている。

 とはいえ、ふたりの恋路が一筋縄でいかないのは当然。トヨコや古庄も、ふたりの関係性に薄々勘付きはじめ、物語は今後さらにねじれていきそうな予感に満ちている。ふたりを待ち受けるのは、天国か、それとも地獄か。第1話のふたりの会話を念頭に置きながら、今後もストーリーを追いかけていきたいと思う。

更「私、これからもずっとそばにいるの。365日一緒に。覚悟して」
轟「…ずっとかよ」
更「そうよ。私たち、死ぬまで切れない」
轟「マジか…。地獄だぜ」

文=五十嵐 大