料理との合わせ方は「色の法則」!初心者にも分かるワインの選び方

食・料理

公開日:2016/5/21

『新久千映の一人さまよい酒』の中に登場し、驚くほど敷居の低い「ワイン入門」を指南してくれた、ソムリエの伊藤博之さん。
銀座にある自身の店「わいん厨房たるたる」で多くの人にワインの魅力を伝えるかたわら、著書『男と女のワイン術』シリーズでは、どんなワイン入門書よりも実践的でわかりやすいワインの楽しみ方を教えてくれる。
今回は実際に「わいん厨房たるたる」におじゃまし、伊藤さんから様々なお話を伺った。
漫画と合わせて読めば、お店でも家飲みでも失敗しない、立派なワイン通への道が待っている!

ーー『男と女のワイン術』シリーズの中でもそうですし、今回の『新久千映の一人さまよい酒』の中にも、ワインの味を説明するためにグラフが登場したりして、とても理解しやすかったのですが、やはり伊藤さんが理系出身という影響が?

伊藤:理系の中でも僕は、物作りが好きだったので工業化学科にいて、社会人になったのが1990年。仕事をしていく中でだんだんと「好きなことをして生きていきたい!」と思うようになって、ワイン関係の仕事を始めたのが1996年だから、もう20年。すっかり水商売の人間ですよ。ただ、理系的なものの考え方は相変わらず好きだし、ワインってとかく文学的になりがちじゃないですか? 香りを表現するにしても「白馬の王子が持っている花のような」とか「濡れた犬のような」とか(笑)。

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ーーワイン独特の表現ですね(笑)。それがまた我々素人を混乱させて。

伊藤:もちろん経験を積んだ人には理解できるし、それはそれでおもしろいとも思うんですが、同時に非常に曖昧でもありますよね。僕がしてきた物作りというのは、とことん理詰めの世界だったので、口に含んだ時の味の広がり、余韻の長さなんかをグラフ化することによって、誰にでも一目瞭然に理解できるように説明できたらと思ったんです。

 

一人さまよい酒

 

ーーワインの味を判断する要素がきっちりと体系立てられていたのもわかりやすかったです。

伊藤:僕の本の中で、ワインの味わいを表現する物差しは「果実味」「酸味」「渋味」の3つだけですよね。もちろんそれ以外にも「コク」とか「旨味」とか、たくさん要素はあるんですが、ひとまずは一切触れませんでした。飲みなれていない人の感想って「美味しい」「まずい」「好き」「嫌い」って感覚的なものじゃないですか。だけどそれだけでは、いつまで経っても自分が飲みたいワインを選べないし、お店で選んでもらえるようにならない。なので基本的に押さえておきたい3つを挙げて説明したんですね。

ーー白、赤、それぞれに基準となるワインを設定するという考え方もおもしろくて。

伊藤:白は「マコン」、赤は「“ただの”ボルドー」。このふたつは、先ほどの味の要素全てが、グラフでいうと真ん中に近いんです。それさえ知っていれば、お店の人に「マコンよりスッキリしたもの」ってちょっと伝えるだけで「あ、それではこちらなんか……」と話が進んでいくんですね。

 

一人さまよい酒

 

ーー確かに、飲食店で美味しいワインを飲んでも、「前回のあれはなんだったっけ?」って、つい忘れてしまいがちで。基準と比較して理解を広げておけば覚えやすいし、「今日はこういうものが飲みたい」とも伝えやすいですよね。

伊藤:あとはお店でワインを選んでくれる人、ソムリエさんに、何でもいいから伝えることが重要。今の気分でも、花や果物に例えるんでも、軽いとか重いとかのイメージでも。何か投げかければ、こちらはそれを解釈して「それって例えばこういうイメージですか?」みたいに提案できるんです。そのキャッチボールの末に、お客さんに美味しいと思ってもらえる一杯を提供することが、我々の喜びなので。だから「おすすめ」「お任せ」は一番困る注文なんですよね。

ーーそういったコミュニケーションを臆せず円滑に進められるようになる基礎知識が、『男と女のワイン術』には詰まっていると感じました。

伊藤:お店に来てリストを見て、フランス語の名前がずらーっと並んでいるのを見て、ほとんどのお客さんは5秒で閉じちゃいますよね(笑)。そりゃあ読めなくて当然だし、全く恥ずかしいことじゃない。ワインって、「知らなきゃ飲んじゃいけない」みたいに思ってしまっている人も多いんですが、そんなわけはない。そこからが我々の仕事なんだから、ぜひ、やりとりも含めて楽しんでほしいですね。

 

一人さまよい酒

 

ーーさて、世に類を見ないほど初心者に優しい入門書『男と女のワイン術』ですが、『男と女のワイン術 2杯め ―グッとくる家飲み編』ではさらに庶民的なテーマを扱われてますよね。ずばり「スーパーでの好みのワインの選び方」という。

伊藤:お店と違って選んでくれる人もいないし、初心者の方が好みのワインにたどり着くのはそれこそ至難の技ですよね。そこでまず、世のスーパーにはどのようなワインが並んでるのかを徹底的に調査しました。もちろんいろいろあるんだけど、基本的に共通していたのが、各国各タイプ合わせて17種類。そこから攻略していこうという本です。

ーーこちらでも基本ワインが設定されていて。

伊藤:そうですね。赤は「ただのボルドー」で、白はマコンよりも置かれていることが多い「ただの(A.C.)ブルゴーニュ」。この本の大半は、基本ワイン2つを含む17種類の特徴についてを書いているので、どこから読んでもいいし、自分が気になったワインが、基準のボルドーと比べてどうなのか? きちんと比較してあるから、スーパーでワインを選び、自分の好みを知っていく際の指針になると思いますよ。

ーー本を片手にスーパーの売り場へ行ってじっくり選べばいいわけで、お店で頼むよりもさらに敷居が低いですよね。

伊藤:そう。だから本当は『2杯め』の方でワインに触れてもらって、だんだん物足りなくなってきて「もっと違うワインが飲んでみたい!」と思ったらお店に行ってみるといいんですよ。その際には、1巻目の内容を参考にしてもらえたらと。

ーーそれから、すごく興味深く読ませてもらったのが、ワインと料理の「マリアージュ」の話でした。特に、完成した料理とワインの色味を合わせると失敗しづらいという「色の法則」には「そうだったのか!」と。

 

一人さまよい酒

 

伊藤:これは、有名ソムリエの田崎真也さんが何かの記事で提唱されていたのを見てからです。もちろん100%の精度ではないけど、非常に納得できる法則なんですよ。わかりやすい例だと、豚のロース。ただ塩コショウで焼くだけなら色は白いから、白ワインを合わせる。焦げ目がつくまでしっかりと焼けば、今度はもうちょっと色の濃い白ワインか、軽い赤ワインが合うようになる。さらに衣をつけて揚げたり、ソースをかけたりすることによって、どんどん重みのある赤が合うようになっていくんです。

ーー単純に魚介には白、肉には赤、くらいの知識しかなかった自分には、目からウロコでした! これを知っているだけでもワインの楽しみが何倍にも広がるなって。

伊藤:もうひとつ大切にしたいのは、ワインと料理、どちらをメインに置くかですよね。ワインを楽しむためにちょっとつまみを食べるのか、料理を引き立てるためにワインを飲むのか。メインにしたい方を強くすると考えておくといいです。例えば、ワインとチーズって定番と思われているじゃないですか? だけど実はチーズって味が強いので、たいていのワインに勝ってしまうんですよ。どうしても合わせたい場合は、量で調整する。チーズをガブッといくんじゃなくて、ほんのちょっと口に入れるようにするだけでも全然違います。マリアージュの世界って本当に奥深いんですよ。僕はこの楽しみ方が、文化としてどんどん流行してくれたらいいなと思っていて(笑)。

ーーそして伊藤さんは、このたび発売になった『新久千映の一人さまよい酒』でも、一話まるまる登場して、今回教えてくださったようなワインの魅力について語られていますね。新たな層を広げるとっかかりにもなりそうで。

伊藤:いや〜本当に、ありがたい限りです。僕はもう、『男と女のワイン術』シリーズと合わせて3部作だと思ってますので(笑)。新久さんの漫画の楽しい雰囲気とあいまって、すごくワインの魅力が伝わりやすい内容になっているので、ぜひたくさんの方に読んでもらいたいですね。

 

一人さまよい酒

 

 

取材・文=パリッコ

 

男と女のワイン術

伊藤博之 柴田さなえ 日本経済新聞出版社

飲み会やデート、プレゼント……美味しいワインをチョイスできるだけで、素敵なギャップを演出できる?美人ライターと銀座ワインバーのオーナーシェフが語りつくす、「口説くワイン」の選び方。

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●どんな料理にも応用できるワインの合わせ方「色の法則」
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●ボトルの裏ラベルから味のヒントを読むには

男と女のワイン術 2杯め ―グッとくる家飲み編

伊藤博之 柴田さなえ 日本経済新聞出版社

どうすれば、スーパーで好みのワインを選べる?
この1冊で、料理や気分に合わせて飲み分けができる、「家飲み」派の必携書!
・著者2人が各地のスーパーを独自に調査。商品棚の傾向を分析し、まず飲むべき基本ワイン17種類を選び、味わいや飲み方を紹介しています。
・基本のフランスワインをはじめ、初心者泣かせのイタリア&スペイン、チリワインから南アフリカ、アルゼンチンまで、味の傾向や合わせる料理まで、本書を読めば家飲みがもっと楽しくなること間違いなし。
・「チリのシャルドネとフランスのシャルドネ、迷ったらどっちを買うか?」など、ワインを買うときに使える実用的な情報が盛りだくさん。ぼんやりとした印象でしかなかった各国のワインの味の違いが、ちゃんとアタマで理解できます。

新久千映の一人さまよい酒

新久千映 KADOKAWA

よいお店を外観だけで判断する方法、ちまちまとお得に飲めるお一人さまのメニュー選び、頑固おやじ・毒舌系おかみの店で居心地よく過ごす方法。『ワカコ酒』でブレイク中! 飲んべえマンガ家・新久千映による「一人飲みをもっと楽しくする」あの手この手を紹介するマンガです。 バーでの大人な振る舞い方や、好みの日本酒・ワインを見つける驚きのテクなど、今夜から実践したくなる一人飲みの楽しみ方も満載!

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