『おこだわり』清野とおるの『ドラゴンボール』天津飯の技が影響したコマで見せた“リアクション芸”【前編】

マンガ・アニメ

2016/5/28

赤羽の某喫茶店にて

「さけるチーズ」を極限まで細く裂いて、裂けまくったチーズで顔を撫でて悦に浸る男。薄皮パン(チョコ)を丸ごと頬張って口の中でプレスし、パンの中からチョコが放出される瞬間を「至福です!!」と言う男……。

たくさん唾液を分泌させて、ひらすら舌と口蓋で薄皮パンをプレスすると…

「日常生活の中で、別にこだわらなくてもいい事に敢えてこだわり、そこに自分だけの幸せを見いだしてコソコソと楽しんでいる輩」を取り上げる清野とおるのマンガ『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(講談社)。同作が題材のテレビドラマも放送中の今、その作品の誕生秘話や創作の裏側を、作者の清野とおるにインタビューした。

編集者からの最初の依頼は「宇宙モノのマンガ」だった!

――『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』は、『東京都北区赤羽』のような“街モノ”のマンガとはまた違う路線の作品ですよね。このマンガを描き始めたきっかけは何だったんですか?

清野:もともとは『モーニング』(講談社)で読み切りの作品を描かないか……という依頼だったんですよ。それで赤羽の喫茶店で、後に『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(以下、『おこだわり』)の担当になる編集者と打ち合わせをしたんですが、最初は「宇宙モノのマンガを描いてほしい」という話で。

――では、清野さんがその話を受けていたら、『おこだわり』は宇宙マンガになっていたと(笑)。

清野:『宇宙兄弟』という絶対的な存在がある『モーニング』で、何で僕に宇宙モノを求めてくるんだろう…とは思いましたね(笑)。僕もその場では、「どういう宇宙モノにしましょうかね?」って一緒に考えたんですよ。でも話は一切膨らまず、30分ほど経ったらお互いに無言になって、僕から『やっぱ宇宙モノは無理です…』と伝えたんです。そのとき、喫茶店の2階の窓際を黒い猫が通りすぎたんですよ。

――また不吉ですね。

清野:そのときに、「実は僕、昔から人の行動で気になっていることがあってですね……」と『おこだわり』の話を始めたんです。もちろん『おこだわり』という言葉はまだなかったですが、そのニュアンスを伝えて、「こういう事を面白いと思うのって、僕だけですかね?」と聞いて。そしたら編集さんもノってくれて、この作品がスタートしたんです。

――スタートしたときには、マンガに出てくる何人かの「おこだわり人」のはすでに見つかっていたんですか?

清野:『アイスミルクの男』の話は当初から出ていましたね。「喫茶店でアイスミルクを頼む人っていますよね」と編集さんと話をしていて、僕らも試しに実践してみたら、何ともおかしな感覚に襲われたんですよ。明らかに、普段より美味しく感じるんです。でも、お店の人に話を聞いたら「いや、普通の牛乳ですけど……」みたいな返事で。

――たしかに喫茶店で飲むと、ちょっとミルクが甘いような感じがしますよね。

清野:たぶん気のせいです(笑)。しかも、冷やしただけの牛乳なのに、喫茶店ではけっこう値段が高かったりしますからね。

自分でひけらかしている時点でそれは「おこだわり」ではない!

――マンガに収録するネタを選ぶ基準は何なんでしょうか。

清野:それが言葉に表すのが難しくてですね、編集さんとは「脇腹センサー」と言っているんですけど、『東京都北区赤羽』とかの場合だと、ネタのおもしろさをキャッチするセンサーは頭にあるんですが、『おこだわり』のセンサーは小脇なんです。何か「楽しそう」「うらやましい」という気持ちが湧いてきた時に、小脇のあたりがくすぐったくなる感じ、分かりますかね? え? まあ、わかりません…よね。ハイ、スミマセン(笑)とにかく、 そのムズムズ感を感じるかどうかが、『おこだわり』のネタを選ぶ基準なんです。

ストローで氷をカラカラ掻き混ぜて両手をグラスで覆い…

――確かに「アイスミルクを喫茶店でチュウチュウすする楽しさ」というのは、想像するだけで何かくすぐったい感じがありますね(笑)。では、取材対象者はどうやって探されているんですか。

清野:本当に身近にいる人ばかりですね。ネタを聞き出すときに決まって最初に聞くのが、「昨日1日何していましたか?」という質問で。そういう聞き方をすると、「8時に起きて、ご飯を食べて……」というように、大抵は聞かせてくれるんです。それで食事の内容とかのディテールを聞いていくと、そこにおこだわりの原石が散らばっているんですよ。

――「こだわっていること何かある?」みたいな聞き方はしないわけですね。

清野:基本的におこだわり人は、自分のおこだわりをひけらかさないですからね。「どう?面白いだろ?」みたいなテンションの人は、ちょっと違うんですよ。「こんなフツーのこと、どうしてそんな面白そうに聞いているんですか?」とキョトンとしている人ほど、話が面白いです。ひけらかす時点で、それはもう『おこだわり』ではなくなっちゃうんですよ。

――そういえば『おこだわり~』に登場する人は、おこだわり品の銘柄を自分からは語らないですよね。「ポテトサラダの男」も「ポテトサラダと一緒に飲むビールは何か」と聞かれるまで答えなかったですし。

清野:そうなんですよ。でも、こっちが聞いたことに対しては全部教えてくれるんです。

「ワンダの金の微糖!!!」と言いながら天津飯の太陽拳を繰り出す

――また『おこだわり』では、マンガの中で話を聞く清野さんのリアクションが、ほかの作品と比べてもズバ抜けてデカいように感じました。

清野:実際は、あんなリアクションを見せながら聞いているわけじゃないでんですけどね。マンガにする上で、1つスパイスを入れたかったというか。

――基本的には人に話を聞いているだけのマンガなのに、リアクションが面白くて笑っちゃう場面もあるんですよね。「ワンダの金の微糖!!!」と言いながら、『ドラゴンボール』の天津飯の技を見せたコマとか。

清野:太陽拳ですね。

――しかも、前のセリフとリアクションがあまり合っていない場合もあって、そこでも笑わされちゃんですよ。

清野:おこだわり人を探すことや、話を聞き出すことよりも、「マンガの中でリアクションをどうするか」に一番苦労しているかもしれないです。連載が続くにつれて、思いつくリアクションは一通りやり尽くした感もあるし、編集さんからも「ここのリアクション、ちょっと違うんじゃないですか?」とか言われたり(笑)

――「さく男」のときに清野さんの体が裂けちゃったり、「梅つぶの男」のときに梅人間になっちゃったりするのは、清野さんが好きな昔の貸本ホラー漫画のテイストが入っているのかな、とも感じました。

清野:体に染み付いちゃってるんでしょうね。結果が出せないまま終わってしまった過去の創作ギャグ漫画時代のノリが。決してムダじゃなかったんだと思いたいです(笑)。

取材・文=古澤誠一郎 写真=山本哲也

後編につづく