10億円で人生を買うなら、「自分の仕事が続けられる」or「10億円もらう」どっちを選ぶ?

文芸・カルチャー

2016/5/26


『真夜中にシュークリーム』(はあちゅう/毎日新聞出版)

“炎上”という言葉をあらゆる場所で耳にする。「炎上タレント」として名前が挙がる著名人たちに共通しているのは、その歯に衣着せぬ物言い。たとえ どんなにSNS上で叩かれようとも、彼らの一部の言動には、「よくぞ言ってくれた!」と手を叩きたくなるような痛快なものがある。

真夜中にシュークリーム』(毎日新聞出版)の著者、はあちゅう(30)氏 はそんな炎上ブロガーのひとり。学生時代にカリスマ女子大生ブロガーとして世に出てから、数々の炎上ネタで世間を騒がせてきた。恋愛や結婚、仕事、人間関係など、その切り口は多岐におよぶ。本作は、そんな著者が媒体のテイストを気にせず、「書きたいことだけを書いた」初のエッセイ本。コーヒー1杯分の値段で読めるWeb雑誌、「月刊はあちゅう」掲載分に加筆・修正・書き下ろしを加えたものだ。63のエピソードの一つ一つを読み進めると、意外にも「炎上女王」としてのはあちゅうではなく、仕事や恋愛に全力投球で、家族を大切にする等身大のアラサー女性の姿が浮かび上がってくる。

興味深いたくさんのエピソードの中でも目につくのは、著者であるはあちゅうの「書く仕事」に対してのこだわりの強さや、並々ならぬ誇りだ。

特に印象深いのが、「思い出し怒り」というエピソードだ。このエピソードの中で、彼女は感情をむき出しにして恋人に怒りをぶつけている。その理由は、「自分が書いた本をディスられたから」。恋人が照れ隠しから、友人の前で彼女の本を「捨てちゃってください」と気軽に言ったことが原因だった。

彼女は言う。

本を書くことが私にとってどれだけ大切か。ちゃんと文章を売って生きていくことに、私はこの人生を懸けているのに

彼女にとって、本を書くことは楽しいだけじゃない。どんなに一生懸命書いても売れないことも多く、次こそは本を出せなくなるんじゃないかという不安と日々戦っている。それでも伝えたいことがあるから、書くことが生きがいだから、苦しくても書く。その頑張りを、いちばん側にいる恋人に否定されたことが許せなかったのだ。この出来事を彼女は、「はあちゅう本ディスり事件」として今でも根に持っている。

今自分がしている仕事を軽く扱われた時、本気で怒ることができるだろうか。そう自らに問いかけた時、即座にYESと言える人はどのくらいいるだろう。つい考えさせられる。

また「born to be writer」では、本に夢中だったこれまでの人生を振り返る。ハイハイをしていた生後8カ月の頃から本を読んでいたといい、本を読みふけっていたせいで高校時代は友達がほとんどいなかったことも明かす。そして、「全てはあらかじめ運命づけられていると信じたい。『作家になるために生まれてきた』って言える人生を送りたい」と書いている。

「十億円払って買った人生」では、「『自分の仕事が続けられるのと、十億円もらうのと、どっちを選ぶ?』と誰かに聞かれたら、自分の仕事と答える」と明言している。働き続けて価値を生み出し、世の中にコミットすることの体験は十億円以上の価値があると。炎上女王として知られている著者だからこそ、一歩間違えればきれいごとに聞こえる言葉も真実だろうと信じられるのだ。

そんなはあちゅうも、素顔は仕事を頑張るアラサー女子。盛大に叩かれながらも、私たちと同じように泣いたり怒ったり、笑ったり考えたりしながら、毎日を一生懸命生きている。仕事にマンネリを感じている人は、背筋が伸びる思いがするだろう。本書を読み終えたら、はあちゅうのことがきっと好きになる。そして、彼女が「人生を懸けて書いた本」を手に取りたくなるはずだ。

文=佐藤結衣