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厳選情報が湯水のごとく溢れ出す! “温泉だけ”に特化した専門誌の凄み


『温泉批評 2016春夏号』(双葉社)

 雑誌やムックというのは最新の情報やファッション、漫画、趣味の模型や音楽、料理、ガジェットに関することなど「特定のテーマ」を追求するものだ。しかし書店へ行くと、追求という次元をはるかに凌駕するマニアックなテーマをターゲットにしている本に出会うことがある。

 濃い内容の本は見慣れているつもりだったが、2013年に創刊し、年2回(春夏と秋冬)出ている『温泉批評』(双葉社)というムック本は、どこまで読んでも日本全国にある温泉に関する情報や論考、旅情報などが徹底的にレポートされまくっていて、とにかく圧倒された。手に取って中を見た瞬間、思わず「バカだなぁ……」とつぶやいてしまったほどだ(もちろん最上級の褒め言葉である)。テーマから一切ブレず、温泉にまつわることだけを追求するというのはなかなかできることではない。

 2016春夏号の巻頭の総力特集は「山温泉! 海温泉!」だ。しかし「温泉はのんびりゆったり、山や海の美しい自然を楽しみながら体の疲れを癒やしに行くところ」という素人考えは瞬時に粉砕される。『温泉批評』の総論は「温泉は、ワイルドでいこう!」であり、山道を何時間も歩き続けないと行けない秘湯や、潮の満ち引きに干渉される岩場や島を目指せ、と超ハードコアなのだ。

 「山温泉! 海温泉!」では標高2000m、雲の上にある温泉という長野県「高峰温泉」の四代目と、船でしか行けない和歌山県の南紀勝浦温泉にある、温泉の湧く島全部が宿泊施設という「ホテル中の島」のスタッフに山と海ならではの温泉の魅力について聞き、各地の秘湯宿を守る「湯守」たちの苦労についてもインタビューを敢行。また山と海の温泉の歴史、「海は名湯である」という読み物(筆者は海洋学部の教授であり「海と温泉は兄弟である」という考えの持ち主だ)、さらには“温泉の猛者”たちによる山と海の温泉にまつわる座談会、「一生に一度は行きたい極上山温泉&海温泉33」という美しい写真が満載のカラーページなど、繰り出される記事の内容の熱さと濃度で湯あたりしそうになるほどだ。

 中でも圧巻なのが「“日本一遠い温泉”を往く!」と題し、片道徒歩13時間という富山県の「高天原温泉」(富山で前泊し、山小屋で3泊、後泊も必要。うち山小屋の2泊は風呂もシャワーもなし)と、片道徒歩11時間のこちらも富山県「仙人温泉」(富山で前泊、山小屋で3泊、こちらの山小屋はすべて温泉あり)を目指す、40代のご夫婦による体当たり記事だ。目的は登山ではなくただ温泉に入るだけなのに、こんな峻険な山道を踏破しないといけないのか……という驚き連続の渾身レポートだ(道程は過酷だが、筆致はどこまでもライトなぬる湯のような感じだ)。

 さらに本書には各地で経営破綻する旅館が多いことを伝える「老舗温泉旅館『存続』の条件」、2015年に大涌谷の噴火があった箱根の現状を報告する「箱根温泉はいまどうなっているのか?」、経費削減から責任ある情報提供が難しくなってきたことが原因と語る関係者へのインタビューを交えた記事「天然温泉表示看板が消える日」、そして「近代文学史上、もっとも温泉を愛した作家」といったエッセイ(あのでんぐり返しをする女流作家だった)などなど、どこを掘っても温泉が湧くといわれる日本と同じく、どのページからも温泉の話題が噴き出してくる、それはそれは熱~い内容だった。

 情報誌やネット検索などで見つけ「ココいいね!」と決めた宿の温泉が、実際に行ってみたらかなり残念だったという経験のある方は多いはずだ。しかし効能の高い内容がたっぷり入った『温泉批評』から情報を得れば、そんな失敗はきれいサッパリ洗い流してくれることだろう。温泉が好き過ぎて作っていることが伝わってくる、信頼に値する情報が満載の一冊だった。

文=成田全(ナリタタモツ)



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