子どもの「好奇心格差」が「経済格差」を助長する!? 子どもの好奇心を育むためにすべきこととは?

出産・子育て

公開日:2016/5/31


『子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力』(イアン・レズリー:著、須川綾子:訳/光文社)

 インターネットが普及して、誰もが膨大な情報にアクセスできるようになった。インターネットは誰に対しても公平に開かれているため、現代の子どもは努力次第でどんな道でも切り開くことができる…。

子どもは40000回質問する あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力』(イアン・レズリー:著、須川綾子:訳/光文社)は、しばしば見かけるというこのような意見を真っ向から否定している。インターネットの普及は、子どもを公平には幸せにしない。むしろ、インターネットこそが子どもの「好奇心格差」を招き、「知の格差=経済格差」を助長すると警鐘を鳴らしているのだ。

 好奇心の表れは、生後2か月頃からどんな子どもにも見られる。好奇心とは、目新しいものに惹きつけられる衝動。例えば、子どもなら衝動に逆らえず、触ってはいけないと言われても手を触れ、ドアが開いていれば外へ駆け出す。大人であれば、衝動のままにインターネットをサーフィンしたり、ツイートを拡散したり、広告の見出しや写真に刺激されて商品を購入したりする。

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 しかし、本書によると、これは好奇心の中でも「拡散的好奇心」と呼ばれるもの。拡散的好奇心で触れた情報や経験は、そのままでは「知」になりにくく、時間が経てば薄くなったり消えていったりする。拡散的好奇心で得た情報や経験を「知」に結びつけるためには、それを自分なりに掘り下げたり、洞察を加えたりといった労力を加えることが必要となる。この労力の源になるのが、「知的好奇心」と呼ばれるものだ。

 本書が指摘するには、知的好奇心の二極化が、子どもたちの中で進んでいる。

 例えば、赤ちゃんがリンゴを見つめながら「ダーダーダー」と喃語(なんご)を発したとする。本書によれば、これが「拡散的好奇心」の表れである。このとき、大人が「これはリンゴよ」と教えれば、赤ちゃんは言葉の意味がわからないまでも、自分なりにリンゴに対しての洞察を深める。知的好奇心を呼び起こす。しかし、喃語に大人が反応しなければ、知的好奇心を呼び起こさないばかりか、声を出すこと自体が時間の無駄だと思うようになるだろう、と述べている。

 子どもは、質問に答えてもらうことで、知的好奇心を働かせる訓練をしている。知的好奇心は、子どもと大人との協力があって、大きく育まれる。そして、本書によると、子どもが2歳から5歳の間にする質問は、じつに40000回にものぼるという。

 本書は、一般的に「好奇心は何も知らない事柄に対して湧き起こる心理」であるかのように誤解されていることに異を唱える。人は、まったく知らないことには興味を抱かない。好奇心は、少しだけ知識がある事柄に対して湧き起こるものなのだ。例えば、大きな図書館が近隣にあっても、膨大な情報にアクセスできるインターネット環境が自宅に整っていたとしても、知識が乏しい状態では好奇心が呼び起こされず、環境を使いこなすことができない。

インターネットは賢い人間をさらに賢くし、間抜けをさらに間抜けにする

 本書が引用している、作家のケヴィン・ドラムの言葉だ。そして、子ども時代の小さな差は、残酷なことに、すぐ拡大する。

 知的好奇心の二極化が進んでいると前述した。お察しの人もいるだろうが、この格差は家庭の所得に比例すると本書は明かす。経済的余裕は時間の余裕につながる。子どもの質問に答える回数に差が表れる。

 本書は、子どもの幸せな将来のためにも、そして、社会的格差の固定化をますます悪化させないためにも、子どもが問いかける質問の一つひとつを大切にしてほしいというメッセージを投げかけている。

文=ルートつつみ