あなたが職場で貧乏くじを引かされるワケ。デキる人ほど陥りがちな社内政治の罠

仕事術

更新日:2017/6/4


『戦力「内」通告 ハーバードが教えてくれない「本当に生き残れる社員」』(ダン・ラスト:著、武藤陽生:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 まもなくボーナスシーズン。待望の季節の到来だ!…がしかし、その実態は査定という会社からの「通知表」をつきけられるタイミング。期待通りの評価ならいいが、「アレ、なんでアイツのほうが評価いいの?」なんて同僚との差に不当感を覚える人もいるかもしれない。目標も達成したし新規プロジェクトの企画も通ったし、もちろん目立ったトラブルも皆無。実績も勤務態度もたいして差がない(なんならコッチのほうが優秀な)はずなのに、一体どうして差がつくのか?

 その謎に答えてくれるのが、先頃出版された『戦力「内」通告 ハーバードが教えてくれない「本当に生き残れる社員」』(ダン・ラスト:著、武藤陽生:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)。いつなんどき「人員整理」という名の戦力外通告=クビ宣告がやって来るかわからないリストラ先進国アメリカから届いた話題のキャリア指南書だ。「社内政治を好きになれ」「職場の友を真の友だと勘違いするな」「下を向いて仕事に専念だけするのは大間違い」「会社で食らうパンチの原因のほとんどは自分にある」といった一見スパルタなアドバイスの数々は、自らも過去に二度クビ宣告を受けた著者が、人気キャリアコーチに転身するまでにつかんだ生きた教訓とあって超リアルで実践的。

 たとえば新企画のプレゼンでライバルに負けてしまったら、まずは冷静に敗因を分析することからはじまるべし! そのためには「同僚や周囲を注意深く観察せよ!」と著者。それこそ霊長類学者の立場でチンパンジーを観察するように徹底的に観察すれば、なぜ相手が評価されるのか理由が見えてきて自分の行動を変えるヒントを得られるという。さらに、相手はチンパンジーだから私情は禁物。うんこを投げつけられても批判するなと説く。そうした観察の積み重ねは会社そのものへの客観的な視野にもつながり、いずれ微細な変化からリストラのピンチを察知して、自らアドバンテージを取ることだって可能になるかもしれない。

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 だが、いくら会社や自分のポジションを客観的に把握できても、「この人、ニガテなんだよな」など単純なマイナス感情にひっぱられて、いまいちパフォーマンスを発揮できないなんてことも実際にはありがち…。著者は、相手のネガティブな態度や批判にすぐに傷ついてしまう人を「ネバネバのチョウ」(強い感情の突風にすぐ吹き飛ばされ、拒絶が体に張り付いてしまう)、逆に相手の明らかなマイナス感情にも気がつかない鈍感な人を「ツルツルのサイ」(分厚い皮膚には何もこびりつかず突き破ることはできない)とネーミング。ネバネバのチョウすぎて身動きが取れなくなるよりは、ほどほどにツルツルのサイでいるべし、と微妙なバランスで意識的に関係を乗りこなせと檄を飛ばす。そのためにはまず、自分自身を客観的に分析して自分の「チョウ度」と「サイ度」を把握すること。不平不満を組織や他人のせいにするのは簡単だが、自分自身をふりかえることでメンタルも強化することが肝要なのだ。

 このほかにも本書で紹介されているテクニックはかなり実践的なものばかり。いずれもアメリカという超成果主義、実力主義の社会(なにせ積極的に成果をアピールしなければキャリアアップどころか、明日から自席がなくなることもある)で、多くの企業を相手に数々の深刻な相談にのってきたという著者の導き出した「究極の掟」だけに、時に過激だがズバリ核心をついてハッとさせられる。

 結局、評価への不満を「カッコ悪いから」「めんどくさいから」とそのままにして、怨念だけためこんでいても何も変わらないのだ。現実を客観的にみつめ、見たくないマイナス部分も「自分のこと」として受け入れた先にこそ、プラスに変えるきっかけはみつかる。著者が気づかせてくれるのも実はそんなシンプルな事実だったりする。

 だが、それにはステップを踏んで「自己発見」するのがおすすめだ。本書にはテクニック毎にあなたに対する様々な質問が用意されている。その問いにひとつひとつ答えていくことは、自分のニガテをあぶりだす作業でもあり、少し痛いかもしれない。だが我慢して一皮むければ、よりタフになれること間違いなし。うれしいことに次の査定まで時間はたっぷりある。この本をバイブルに、どんな企業や上司からも戦力「内」通告をオファーされる、一步先行くビジネスパーソンになろう。

文=荒井理恵