「産む」「産まない」は私が決めて何が悪い!【鼎談 上野千鶴子×東小雪&増原裕子 <中編> 】

恋愛・結婚

更新日:2016/6/6

特別鼎談 上野千鶴子×東小雪&増原裕子「産む」「産まない」は私が決めて何が悪い!

その2:レズビアンカップルが子づくりして何が悪い!

上野千鶴子×東小雪&増原裕子

さきごろコミックエッセイ『女どうしで子どもを産むことにしました』を出した東さんと増原さん。レズビアンカップルへの社会的偏見を超えて妊娠をめざす彼女たちの挑戦は、あらためて「妊娠・出産」に対する女の自覚——―産む・産まないの決定は誰がするのか?——―を問い直す。このたび、出版記念としてそんなお二人が、尊敬する「ヘテロセクシュアルで結婚・出産経験なし」の上野千鶴子先生と鼎談。第二部はレズビアンカップルの出産・子育てへの偏見に真っ向勝負。ヘテロ男女にこそ、この事実を知ってほしい。

advertisement


 

女が女を愛するのは当たり前

上野:実はレズビアンマザーって、日本にも外国にもたくさんいるのよね。ただ、その人たちの多くは、不覚にも結婚・出産してから自分がレズビアンだということに気がついて、夫と別れてお互い同居生活をするようになった人たち。外から見たらシングルマザー同士が助け合うために同居してるように見える。日本の社会はそういう女同士の同居に許容度が高くて、その人たちがレズビアンカップルかなんて詮索しない。女性のカップルが家を借りるハードルは、アメリカのほうがはるかに高いのよ。

増原:女同士の同居=レズビアンという偏見があるっていうことですね。

上野:最近変わってきているけれど、レズビアンに対するスティグマ(烙印)が強かったから。でも日本は女同士でいることのスティグマは少ないのね。

増原:「これまでの日本の女性たちは自分のセクシュアリティを考える間もなく結婚して出産してきた
と上野さんがお話しされてきましたが、まさにそういう人たちなんですね。

上野:そうなのよ。「あんたヘテロかよ、ほんとに」ってね(笑)。実は自分が何者なのかもよくわかっていないわけ。

増原:私たちは今30代ですけど、「レズビアンというアイデンティティを引き受けて生きていこう」という人が増えてきたのは、今50歳以下の人たちが多いように個人的に感じています。

上野:そうなのよね。ロールモデルがないと、自己肯定できないのよ。

:たしかに、先輩がいらっしゃるのは、すごく励みになりました。結婚式をあげたのも、先輩のアルバムを見せていただいたのがきっかけだし。レズビアンマザーも5年前くらい前から身近な存在になってきたんです。

上野:いま、あなたたちが公然と「レズビアンカップルである」というライフスタイルを世の中に伝えているのは、すごくいいことだと思う。「女が女を愛する」ということが当たり前って示してくれている。女の場合は友情と愛情が緩やかに連続している。詩人のエイドリアン・リッチも「レズビアン連続体」って言っているしね。そういえば昔、『女友だち』(フェミックス、2012年)というすごくいいエッセイを書いた木村榮さんとトークをした時に、「そういえば私たちが20代だった頃は、女同士の間に友情はなりたつかってディベートをしてた」って話になったの。

増原:え? 「友情」ですか? しかも、男女間じゃなくて。

上野:当時は「女同士は互いにライバルで足をひっぱりあうものであり、女の間で友情はなりたたない」という社会通念があって、大真面目に議論してたの(笑)。あの頃は、「友情」は男の独占物だったのよ。でね、どうしてそんな議論をしてたのかしらって木村さんに言ったら、彼女は「それは女が女をリスペクトできなかったからです」って。たしかに友情はリスペクトできない相手には生まれないし、ましてや愛情なんてね。

東&増原:はい。

 

なぜ「家族」になりたいのか

増原裕子

上野:ひとつ聞きたいんだけど、あなたたちが「カップル」になりたかった動機はすごく理解できるんだけど、そこから「家族」になりたいということへはどうつながるのかしら。家族社会学では家族の最小単位である核家族は再生産の制度で、夫婦と子供を入れて3人以上で構成されるもの。カップルだけでは核家族とはいわない。日本のヘテロのカップルは、ほとんど家族になりたい動機でカップルになる人たちでだから、お二人はそれとは違うのよね。

:まず「カップル」になりたかったんです。

増原:家族になるのが前提ではなかったですね。たぶん、もっと前の段階でそれぞれ漠然と「自分も子供を産むものなのかも」と思っていたけれど、ただ、私たちは産めないってもやもや思っていたのはあると思います。

:つまり、もともと産んでみたかった同士がたまたまカップルになって、「やっぱり産みたいよね」となったわけで。

上野:そっか、カップルになったことで、「母になりたい」というそれぞれの欲望を抑えないですんだってことなのね。

増原:たぶん同じレズビアンカップルでも相手が違っていたら違ったと思います。彼女とは「母になりたい度合い」が割と一緒だったんですよ。レズビアンということは完全に引き受けられている二人で、母になりたいという度合いも近くて、だから一緒にトライしてみようと。

上野:よかったわね〜、それは。子供が産まれたら、お互いに自分の人生の最優先課題がパートナーじゃなくて子供になっちゃうわよ。もちろんそれが当たり前のことで、そうじゃないと人間の子供は育たないんだけど。強く結びつき合った二人の間で、お互いに一番大事な人が相手じゃなくなるというのはいいわけ?

:いろいろ考えてはきましたけど、そんな「いいわけ?」と直球でいわれてしまうと…。

増原:たしかにそういうふうに言語化していたわけではないですね。あらためて覚悟しないといけないかもしれません。

 

同性カップルの子は不幸か?!

上野:世間では同性愛のカップルが子育てをすると子供が不幸になるっていう言説があるよね。そのあたりはどう考えているの?

:きっと「けしからん!」って言われちゃいますね。

上野:「規格外」の家族だから、子供がゆがむんじゃないかっねいわれるでしょうね。

増原:はい。社会では父と母がいるのが正解とされていて、それ以外のスタイルはおとしめられていますからね。でも現実には「父と母が揃わないとまともな子に育たない」なんてことはないのに。

上野:離別シングルマザーがこれだけ増えたから、「父が不在の家庭」には特に問題がないってことはクリアされている。でも、レズビアンカップルだとまだいろいろいわれるでしょう。特に子供のセクシュアリティが混乱するということで。

:映画の『チョコレートドーナツ』(1970年代のNYでゲイカップルが育児放棄された知的障害児と養子縁組して育てたという実話をベースにした映画。作中では親権をめぐって裁判が起こされた)でも、ゲイカップルの子育てに対する偏見が描かれていましたね。

増原:要はゲイのカップルに育てられたら、ゲイになるんじゃないかってことですよね。

:私たちの場合は、ゲイ男性から精子提供を受けているので、子供がゲイになるんじゃないかって言われたこともあります!

上野:あらまあ。DNAレベルだと思われてるわけね(笑)。

増原:知らないからなんでしょうが、セクシュアル・オリエンテーション(性的指向)が、すごく後天的なものに左右されるという思い込みが社会にありますよね。でも、私たちは普通に異性愛の両親から育っているし、そこは繰り返し説明していかないとわかってもらえないのかな、と思っています。

上野:ちゃんと実証的なデータで説明したほうがいいわね。アメリカではすでにたくさんの事例が蓄積されていて、「ゲイ・レズビアンカップルの間の子供も、長じたのちのセクシュアリティは多様である」ことも実証されているから。つまりセクシュアリティを決めるのは親だけじゃないってことよね。現にあなたたちだって、ヘテロセクシュアルなカップルから産まれているのにね。ほかにもゲイ・レズビアンカップルに育てられた子供たちの幸福度も全然変わらないという結果も出てる。

増原:そうですね。逆に幸福度は高いという調査結果も複数ありますよね。

上野:やっぱりそれは、親がちゃんと愛し合ってるからよね。愛し合ってないヘテロのカップルは山のようにいるのに、愛し合ってないセクシュアルマイノリティのカップルはほとんどいないからね。

増原:そうはいっても、社会の中に偏見や差別が明らかにある状態で、子供を産むことのリスクということについては覚悟するしかないと思っています。マイノリティということでは障がい者や外国籍の方も同じかもしれませんが、だからといって子供を産むのは「子供がかわいそうだからやめろ」とか「わがままだ」というのはおかしいですよね。むしろそんなことを言う暇があるなら、そういう子がいじめられないようにあなたが率先して動いてほしいなって。そういうふうに言ってくる人こそ、呪いを増殖させてるように思うんです。

上野:ああ、また45年前を思い出しちゃった…。おんなじ議論をしてたから、ほとんどデジャヴュだわ。まさか再び同じ台詞を、その頃には生まれていないうんと若い女性から聞く事になるなんてね…。当時の「産む産まないは女の自由」という標語は、優生保護法改悪阻止の運動の中で女性たちが「中絶の自由」を求めて唱えたものなの。でもそれに対抗したのは「自分たちは産まれる前に殺される生命なのか」という障がい者団体だった。そのとき田中美津というリブの運動家が、「女だけがヒューマニズムで生きられる訳もないこの世で女と障害者はどのような出会いを持ち得るのか」と言った。つまり、両方とも生きられる社会を作らないと、女と障がい者の対立はなくならないと言ったわけ。それが、「産める社会を、産みたい社会を」というもうひとつの標語につながっていったの。だからほんと、子供がかわいそうって言ってるヒマがあったら、差別なくせよって。

増原:本当にそう思います。「子供を持ちたい」というと、「子供のことを考えてるのか」とか、「子供の人権はどうなる」とか、Twitterレベルでもがんがん批判されますから。

上野:ああ…45年間言い続けてきても、まったく変わっていないということね。

 

難しかった精子提供者探し

上野千鶴子

上野:そんな中でふたりが親になったら、学校からもらってくる書類とかの父母欄、みんな書き直すことになるわけね。面白いじゃない!

:二重線をひいて「母・母」にします(笑)。親1、親2にしてくれたらいいのに。

上野:性別が関係ないんなら、いっそ親3、親4がいたっていいわよね。

東&増原:はい!

上野:アメリカではレズビアンもゲイも生殖テクノロジーで子供を作っている人も多い。以前、アメリカの女性学会で「精子提供者の男の介入をいかに排除するか」というレズビアンマザーの親権について議論をしていたことがある。「出自を知る権利」はもちろん子供にあるけど、知れば父親だとわかった男が子供に対する権利主張をしてくる可能性がある。それにどう対処するかという事態が起きていたのよ。

:そういうトラブルもあれば、逆に経済的なことは精子提供者に求めないと言っていたはずのレズビアンが態度を変えるというトラブルもあるようですね。

増原:私たちも実際の友人から精子提供を受けているので、将来的にそういうトラブルがないとは限らないと思っているんです。だから万が一のために、何があっても話し合いで解決できそうな人に提供をお願いしようと。

:あらかじめ提供者の彼にも「こども自身が認知請求する権利は妨げられない」と伝えてあるので、彼もリスクになりうることは認識しています。そこも理解した上で提供を検討してくださる方でないと、お願いできませんから。

上野:提供者が見つかってよかったわね。合意までハードルが高かったでしょう。

:本当に大変でした。よく、どうやって精子提供者を選ぶんですかってよく聞かれるんですけど、選ぶというより、話し合えて、尊敬できて、縁がある人に決まったんです。

増原:さきほどの友情じゃないですけど、尊敬できない人にこんな大切なことは頼めません。今、提供をお願いしているのはゲイの友人なのですが、合意まで2年くらいかかりました。元々彼もゲイということで諦めていた出産に関われるし、そこを一緒にやりたいと言ってくれる人は本当に貴重だと思います。

上野:そのハードルを超すために何年間かかかっていると、卵子のほうが老化しちゃうよね。

:だから切実なんです…私たちは生理のたびに卵子老化のことを自分のこととして考え続けているわけですが、やっぱり男性は感覚が違います。お願いされたときから自分と血のつながった子がこの世に誕生することを考え始める。

上野:男はその気になったら、いくつになっても生殖能力があるって、悔しいよねえ…。

:とはいえ大事なことですから、私たちのほうからは「早く決めてほしい」とは言えません。ただ半年とか検討に時間がかかると、半年分は歳はとっていくわけだから、そこは悩ましかったですね。おそらく世の妊活女性がほんとに切実な状況にあるということはなかなか男性には伝わらないでしょうね。

上野:それにしてもよくみつかったわね。エッセイ読みながらはらはらしていました。本当によかった。


 

精子提供者の精子で妊活し、「父」という存在が不在の家族のあり方を実践しようとしている東さんと増原さん。子育てに「男」は必要か不要か…究極の問に上野先生の鉄槌がくだる「後編」につづきます。

 
取材・構成  荒井理恵

 

■女にとって「産む」とは何か?【鼎談 上野千鶴子×東小雪&増原裕子 <前編> 】

■男は子育てに必要か?【鼎談 上野千鶴子×東小雪&増原裕子 <後編> 】

 

『女どうしで子どもを産むことにしました』

東小雪、増原裕子、すぎやまえみこ(漫画) KADOKAWA

TDL挙式で注目を集めたレズビアンカップル、小雪とひろこ。家族になったふたりは、もうひとり(ふたり?)「新しい家族」を迎え入れることを決めました。わからないことだらけの、女どうしの妊活がスタート!しかしその道は、イバラだらけでありまして……。新しい家族のカタチをもとめる女ふたりの道程を描くコミックエッセイ。

ダ・ヴィンチニュース集中連載はこちら!