作家・冲方丁が被災して気づいたこと「人生の障害は必ず乗り越えられる」

文芸・カルチャー

2011/9/5

 時代小説『天地明察』で昨年度本屋大賞を受賞した、福島市在住の小説家・冲方丁は、震災当時をこうふりかえる。
  
「家も無事、家族も無事でしたが、最初に水がなくなり、ガソリンがなくなり。電気は使えたんですが、通信回線が切れたので、インターネットができなかった。携帯電話もつながらず、情報源はテレビだけ。最初の水蒸気爆発が起こったニュースをテレビで見て、福島を出ることを決めたんです」 
  
 冲方さんは現在、妻子と暮らす東京の仕事場兼住居と、小説執筆のための大量の資料が残る福島の自宅とを、往復しながら活動中だ。震災から1カ月間で原稿用紙300枚分もの小説を執筆、今なお手を休めていない。 
  
「怒りで締め切りを乗り切った感じがしますね。ある日突然、いろんなものを奪われると、無性に腹が立ちますよ。これ以上奪われてたまるか、これ以上持っていくな俺から!と。こうした怒りの感情は、被災者に共通していると思うんです。その感情は、復興のためのエネルギー、現状に対抗するエネルギーになる。でも、その状態をずっと続けるのは難しい。疲れます。だから、ちょっと心の角度を変えないと。笑わなきゃ、楽しまなきゃいけないと思うんですよね。その時こそ、エンターテインメントの出番だと思うんです」 
  
 自分の作品を振り返り、改めて気づいたことがあるそうだ。 「人生の障害は必ず乗り越えられる、どんなに挫折しても、必ず。振り返ってみれば、そのことを僕は書き続けてきたんです。3・11で経験したことや思考を高めて、これからもそのテーマを書き続けていくつもりです」 
  
(ダ・ヴィンチ8月号 東日本大震災特集より)