死様(しにざま)をテーマにした競作小説シリーズ登場!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

 「死様(しにざま)」をテーマに、6人の作家が競作する小説シリーズが登場した。
  
 「一分一秒が愛おしい最期の恋を描きました」 こう語る恋愛小説の名手・盛田隆二さんが描いたのは“最期の恋”。タイトルは、『身も心も』(光文社)だ。
  
 「人生の残り時間が迫ってきて、一分一秒を大切にしたいと本当に心の底から思う時には、やっぱり“身も心も”になると思うんです」
  
 主人公の道久礼二郎は75歳。6年前に妻を亡くし、一時は要介護認定を受けるほど衰弱する。
  
「僕のおやじがそうだったんです。おふくろを亡くした後、生きる気力を失って。老人性鬱病です。そういう時に、もう一度生きてみようと思うきっかけって何なのかと」
  
 当時、実父を介護していた自分の体験をベースにした『二人静』を連載中だった盛田さん。
  
「今度は父親の目線に立ってみた時に、妻を愛していたのに、ちゃんと優しくしてやれなかったという悔いを抱えた極めて平凡な男の姿が浮かんできた。礼二郎にとって恋愛は人生でやり残していることなんですね。そんな男がどんな女性となら、また恋に堕ちるのかを考え続けました」
  
 礼二郎は出会ったのは、64歳の岩崎幸子。逃げ回るばかりの人生を送ってきた彼女もまた本当に自分の人生を生きた実感がない。「そういう男と女が人生の最後の最後に出会って寄り添うことで、お互いにないものを少しでも取り戻せるってこともあるんじゃないかと」  
  
 しかしその矢先、礼二郎が脳梗塞で倒れる。薄れゆく記憶に抗うように、愛を深めてゆく二人。死を前にして一瞬一瞬、命を手操りよせるようなせつなさが胸に迫る。
  
 「“人生の最期のあり方を考えると、今の生き方が見えてくる”というこのシリーズのテーマは、図らずも、震災で日本人がみんな、考えたことでもあると思います。人は失って初めて自分の人生に欠けていたものに気づく。これは喪失の空虚さに飲み込まれそうになりながら、もう一度生きようとした男の話でもあるんです」
  
●テーマ競作小説「死様」 盛田隆二 『身も心も』 佐藤正午 『ダンスホール』 荻原 浩 『誰にも書ける一冊の本』 白石一文 『翼』 土居伸光 『光』 藤岡陽子 『海路』
  
(ダ・ヴィンチ8月号 光文社書店より)