下痢→トイレから始まるステキな恋? 童貞男子×絶世美女のユーモアラブ小説!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『ウンメイト』(百舌涼一/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

こんなにもトイレにこもる主人公が、いまだかつて存在しただろうか?

いろいろな意味で斬新なラブコメ小説『ウンメイト』(百舌涼一/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は第2回本のサナギ賞で大賞を受賞した作品である。

気になるのはタイトルの意味。「ウンメイト」は、お腹のゆるい男性が主人公となれば、なんとなく察しがつくと思う。……明言はしないけれど。しかし、本書は決して下ネタまみれの物語ではない。そりゃ主人公は最後まで「下痢をしていた」という理由で「ゲーリー」と呼ばれているが、汚らしい表現や女性が引いてしまう下品なネタは一切ない。ユーモアと純愛にあふれる、とってもステキな小説なのだ。

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物語は、「ボク」が通勤途中に便意をもよおして駆け込んだ九段下駅のトイレで、折りたたみ式のベッドで寝ていた 絶世の美女「ナタリー」(外国人というわけではなく、自称である)と出会うところから始まる。

ひょんなことから、「ボク」は彼女に「私の運命の人を探してほしい」と頼まれ、探偵のようなことをすることに。舞台は主に、ナタリーが行きつけのバー“おととい”。そこに訪れる変わった悩みを抱えた男性客の中に、果たしてナタリーの「運命の人」はいるのか。絶世の美女だが、型破りな彼女の突拍子のない要望に巻き込まれてしまった「ボク」はブラック企業を辞めることができるのか? お腹のゆるさは治るのだろうか!?と、「ボク」に感情移入しつつ、ハラハラ、クスクスしながら読める小説だ。

ここでネタバレを一つ。ナタリーの「運命の人」は見つかる。しかし、それが結末ではない。むしろ、「運命の人」が現れたことから、物語は前半のユーモラスで軽快な作風がぶち壊され、後半の急展開に繋がっていく。その前半と後半の「雰囲気の違い」が読みごたえ抜群で、ページをめくる手が止まらなくなってしまった。

一つのお話の中で登場したバー“おととい”に訪れる男性客が、ラストも勢ぞろいし、それぞれ役割を持って再登場するところは、作品構成力の高さを感じさせられる。ユーモアがあり、オシャレだけどキザではないセリフ回しも本書の魅力の一つだ。

だが、一番のポイントはなんと言ってもヒロインのナタリーではないだろうか。ナタリーは「暴君」ともとれる身勝手さで「ボク」を振り回す。超絶美人なのに無茶苦茶な性格というだけでも、キャラクターとして魅力があるが、読み進めていく内に、ある過去が明らかになっていく。すると、ただの「美人で暴君」という、いわば表面的でしかなかったナタリーの魅力が一転。なんて、純情で、一途で、かわいいの……!!! と読み終わった後、もだえて、もう一度読み直してしまう。

脇役だが、バーのマスターも素晴らしい。紳士でオトナ……と思いきや、最後の最後で魅せてくれる。かっこよすぎる。

ストーリーが肉厚で、セリフにセンスがあふれていて、なおかつ登場人物が魅力的となれば、面白くないはずがない。6月16日発売らしい。買わねば!!

文=雨野裾