有罪率99.9%に挑む“悪魔の弁護人”再び! ペテンの嵐が吹き飛ばす殺人トリックとは!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『無法の弁護人2 正しい警察との最低な戦い方』(師走トオル/KADOKAWA)

日本の刑事訴訟における有罪率は99%以上であり、被告の逆転勝訴は不可能に近い。世界的に見ても異常に高いこの数字は、日本の警察や検察の優秀さを示す一方で、冤罪で逮捕・起訴されてしまった無実の被告人にとって「絶望」を意味する。

だが、そんな絶望の深淵に落とされた依頼人を救い出す、最強の弁護士がいる。男の名は、阿武隈護――人呼んで“悪魔の弁護人”。

読書メーターでウィークリー&デイリー1位を獲得した前作『無法の弁護人 法廷のペテン師』(師走トオル/KADOKAWA)で、衝撃の大逆転法廷劇を繰り広げた、あの男が帰って来た!

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無法の弁護人2 正しい警察との最低な戦い方』で、阿武隈と新人弁護士・本多が再びコンビを組んで挑むのは、横浜で発生した会社社長殺人事件。

清掃会社の若手社員が、ビルの屋上から社長を突き落として殺害したという、シンプルな殺人事件だが……阿武隈がからむ以上、ただの弁護依頼であるはずがない。

なんと、被告人の今井仁志は、前作で阿武隈たちと戦った美人検察官・井上優子の実弟! 井上検事は弟の無実を信じるが、今井は警察の取り調べで「犯行を自供」してしまった。そればかりか「社長を突き落とした瞬間の監視カメラ映像」という、決定的な証拠があるのだ!

自白や物的証拠だけではなく、状況も最悪だった。品行方正な姉とは対照的に、今井は素行不良で、死亡した社長との関係も良くなかった。会社関係での評判も芳しくない。おまけに仁志には前科(前に働いていた飲食店の店長に対する暴行傷害)まである。

1000%有罪と言っても過言ではない最悪の状況。無罪を勝ち取るなど、不可能ミッションとしか思えない。だが、阿武隈の法廷戦術に「不可能」はない。

「犯行を自供したのは姉を守るためだった」「突き落としたのではなく、転落する社長をつかんで救おうとした」と被告人の今井からもう一つの可能性を引き出すと、阿武隈は、そこに逆転無罪への突破口を見出す。裁判での標的を「警察」にロックオンしたのだ。

そして裁判という名の、阿武隈劇場が幕を開ける。警察の捜査方法や取り調べでのやりとりに“難癖”を付けて、供述書や証拠の信ぴょう性を揺るがし、裁判員たちに「合理的な疑い」を抱かせる作戦だ。

警察が気の毒になるほどに冴え渡る“悪魔の弁護人”の弁舌。検察側証人として証言台に立った担当刑事は、阿武隈の術中にはまり失言を繰り返す。

「その言葉が聞きたかったんですよ」

“悪魔じみたニヤリとした笑み”を浮かべた阿武隈が、このセリフを法廷で口にする度に、状況が好転してゆく。

検察や警察、今井に悪意を抱く証人たちの「狡猾な罠」を逆手に取り、被告人の無罪を証明する阿武隈と本多の圧倒的な逆転劇に、思わず拍手を送りたくなる。

悪魔の策略が嵐と吹き荒れた法廷は、やがて意外な真相にたどり着く――。

シリーズ第2巻となる本書では、新米弁護士・本多が弁護士を志した理由や、悪魔の弁護人と呼ばれる阿武隈が「かつては本多のような真面目な弁護士だった」というキャラクターたちの裏事情が見え隠れし、今後のシリーズへの期待を膨らませてくれる。

また、法廷サスペンスとしての面白さもさることながら、破天荒な阿武隈とクソまじめな本多のコミカルなやりとりも楽しく、新必殺技「裸で土下座」も飛び出すなど、人間関係もパワーアップしている。

阿武隈とともに法廷に立ち無罪を勝ち取る中で、本多は戦い方を学び、腕を上げていく。だが、悪魔と契約した人間が幸福な人生を歩んだという前例などない。

本書を読み終えた読者は、阿武隈と本多の次なる逆転劇を期待しつつ、2人の向かう未来を案じて、「第3巻が気になる!」と口にすることだろう。

その時、阿武隈は悪魔じみたニヤリを口元に浮かべるはずだ。

「その言葉が聞きたかったんですよ」と。

文=水陶マコト