不死身と改造義手の男たちが挑む怪事件、隠されたオマージュと昭和のヒミツを解読せよ!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『S20-2/戦後トウキョウ退魔録』(伊藤ヒロ、峰守ひろかず/KADOKAWA)

時は昭和20年。戦後の混乱期の東京では、奇怪な事件が頻発していた。巨大ロボット兵器、吸血鬼、宇宙人、巨大な蛾を神と崇める組織の暗躍――事件の真相を追い、人知れず解決している男たちがいた。不死の体を持つ茶楽呆太郎と、機械仕掛けの腕を持つ襟之井刀次――異色の紙芝居職人コンビである。

「紙芝居作成並ビニ不思議問題解決相談承リマス」
2人が働く襟之井紙芝居製作所の看板が、今日も不可思議な事件を呼び寄せる。

ノベルゼロの創刊タイトルのひとつとして刊行され、大好評を博した退魔師コンビの物語、待望の第二幕が『S20-2/戦後トウキョウ退魔録』(伊藤ヒロ、峰守ひろかず/KADOKAWA)である。

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戦後の東京という世界観や、個性豊かなキャラクターたちのやりとり、特殊能力を駆使した迫力あるバトルなど、見どころの多い本作だが、語る上で外せないのが「隠しオマージュ作品」だろう。

『S20』の各エピソードには、戦後日本史に残る重大事件や、戦後特撮アニメ史に残る名作を思わせる登場人物や設定・ガジェットが隠されていて、読み進めて行くと「ああ、このネタって、あの作品につながるんだ!」とニヤリとしてしまう仕掛けになっているのだ。

もちろん、その仕掛けは第2巻でも健在。ネタバレギリギリのラインで、オマージュ解読のヒントを紹介しよう。

「海龍目覚める」は「穢れた炎によって、海の深みで目覚めた大いなる荒神」が東京湾に現れ漁師を襲う。事件関係者である元軍人で今は漁師の呉嶋久蔵は、その腕っ節の良さから「呉リラ」とか「久ジラ」とか呼ばれている。オマージュ作品は、「ゴリラ」「クジラ」に由来する名を持つあの「怪獣王」。

「菩薩=銃(ボサツガン)」では、顔に覆面代わりの包帯を巻き、背中にマント、両手に自動拳銃の「正義の味方」が、疾風のように現れて悪を倒し、疾風のように去ってゆく。事件に関わる青年脚本家の名前は「コウチ君」。「母=おふくろさん」への強い慕情を抱くコウチ君といえば……あの先生!

「帝国地下陰陽物語」の事件のカギとなるのは言わずもがなの「平将門の首塚」。東京ならぬ「帝都」の地下に隠された「陰陽」の秘密。ナゾのショウモン教団にさらわれた少年の名は「ヒロシ坊」……これだけでも充分濃いが、教団を追う過程で出会うのが、政府直属の陰陽保安部隊「あかつき」。黒の鉄兜に覆面、袖のない着物の胸元には鎖かたびら、腰にぶら下げた拳銃。「拳銃は最後の武器だ」――が決め台詞のあの部隊。

そして、第2巻を締めくくる「半神(あるいは帝銀事件)」では、刀次の持つ機械仕掛けの腕をめぐって、ハードな戦いが巻き起こる。陸軍・神無月機関が秘密裏に開発していた軍用義肢・四式特肢。刀次の左手に装着された一号機“つるぎ(剣)”を奪わんとするかつての親友・古田の右手には、二号機“りうせい(流星)”。2つの軍用義手は意思を持ったかのように共鳴し合って赤と青の光を放ち、刀次と古田の“半身”を機械化してしまう。そして、完全体――「超人機械」になろうと暴走を始めてしまう。

日本軍が開発した赤と青の半身の機械ヒーローといえば、「●●●ダー」だ。

この他にも、「野に咲く花のように」では“日本のゴッホ”と呼ばれた天才画家「山なんとか」と上野動物園に残された戦争の傷跡が描かれ、「戻れ、目を逸らさせるものよ」では、アメコミや“魔の三角地帯バミューダトライアングル”の謎がクローズアップされている。作品オマージュだけではなく「深川めし」や「勝鬨橋」といった東京の風物や、「スパイ・ゾルゲ」「帝銀事件」などの歴史的事件も物語に織り込まれている。『S20』の世界をより深く味わうために、昭和史をネットで検索しながら読んでみるのもオススメだ。

『S20』シリーズに満ち溢れる昭和の空気にひたりながら、時代の変遷に思いを馳せる。進化した文明科学も、特撮アニメの名作も、身の回りで起こる不可思議な出来事も、なんだか全てが終戦直後に仕組まれていたような気さえしてくる。

今は、昭和91年。

文=水陶マコト