新しい未来は、ゲーム世界からやってくる? 私たちの社会とゲームの関係を考える『ゲームってなんでおもしろい?』

エンタメ

公開日:2016/6/16


『ゲームってなんでおもしろい?』(角川アスキー総合研究所/KADOKAWA)

 画面に映像を映しだして遊ぶテレビゲームの発明者は、誰だかご存じだろうか?

ゲームってなんでおもしろい?』(角川アスキー総合研究所/KADOKAWA)によれば、テレビゲームの発明者は、アメリカ人の物理学者ウィリー・ヒギンボサム。1958年、ニューヨークのブルックヘイブン研究所に勤めていた彼は、2人対戦の「テニスゲーム」を作り、これが世界で最初のテレビゲームと言われている。同年、日本でも東京大学理学部高橋秀俊研究室の大学院生がコンピューターで「山崩し」のゲームを作って遊んでいた記録が残されている。どうやら人間は、新しい技術を手にすると、遊ばずにはいられないようだ。

 本書は、ゲーム業界の最前線で開発を続けるゲームクリエイターや研究者へのインタビューが収録され、「ゲームってなんでおもしろいの?」をテーマに、私たちの社会とゲームとの未来計画を描いている。世の中の識者たちはいったいどんなビジョンを持っているのか。本書に掲載されている識者たちの言葉を一部紹介しよう。

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アメリカのゲームはシミュレーション、日本のゲームはイマジネーション。
立命館大学教授 上村雅之

 任天堂に勤めてファミコンの設計に携わった上村さんは、日本とアメリカのゲーム文化をこう語る。日本人は現実のことがそのままゲーム内で起こってもアメリカ人ほど面白いとは感じないのだとか。それよりも脳内で変換したり、妄想したりして楽しむという。確かにリアル志向のアメリカ製のゲームと違い、日本製のゲームはストーリーや世界観の凝ったRPGや、物理法則的にありえない必殺技を使える格闘ゲームなど、空想を取り入れたものが多い。現実と虚構のほどよいブレンドが面白さを生んでいたのだ。

成長を実感できるというところが、ゲームの本質的なデザイン。
東京大学教授 稲見昌彦

 稲見さんは最新技術とスポーツを融合した「超人スポーツ」の提唱者でもあり、若い頃からゲームが好き。自分の成長を、いちばんわかりやすく認識できるものがゲームだったという。ちょっと勉強しただけではすぐに成績は上がらないし。ちょっと運動してもすぐに何かできるようにはならない。でもゲームは時間を費やせば何かしら成長があるし、達成感を得られる。ゲームデータが消えてしまった時は、身体の一部を失ったかのような喪失感を味わう。ゲームとは、いろいろな人生を疑似体験するツールなのかもしれない。

ゲームは大人と対等に戦える、やる気さえあれば勝負になる。
プロゲーマー 梅原大吾

「ウメハラ」の名で世界的に知られるプロゲーマーの梅原さんは、そもそもスポーツ少年だった。しかし格闘技などの競技は人種の壁などがあって、外国人には敵わないことが子供心に引っかかっていた。けれどゲームには目に見えるハンデがない。子供でも大人と対等に戦えるところに惹かれたのだという。最近ではゲームを知的スポーツ競技「e-sports」として扱う動きがあるが、大会に向けて生活習慣を変える梅原さんのゲームへの姿勢はまさにアスリートだ。ゲームがオリンピック種目になる未来も夢ではないと思わせてくれる。

誰もが趣味のようにゲーム開発をする時代が来る。
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 大前広樹

 インディーズを中心にいま注目されているゲーム総合開発環境Unity。大前さんの目標はゲーム制作につきものの困難を楽にしてクリエイターに面白いゲーム作りに専念してもらうことだ。これまでアイデアを持っていても、資金や環境がなかった人たちが気軽にゲームが作れるようになっている。なかには友人の結婚式に贈るためだけにゲームを1本作ってApp Storeでリリースした人もいたとか。将来的には、ゲームは誰でも開発できる、自己表現やコミュニケーションのための身近なツールになっているかもしれない。

VRは過去30年のゲームの歴史の中でも最大の変化をもたらした。
ソニー・コンピュータエンタテインメント 吉田修平

 2016年は、ついにゲーマー待望の「PlayStation VR」が発売される。開発総指揮の吉田さんは、人間が経験を積むことで成長するように、現実と同じようにVR(仮想現実)体験によって人間の能力が引き出せるという。すでに医療の手術シミュレーターやパイロット養成の操縦シミュレーターなどが実用化されているが、戦地の難民キャンプをVRで再現して世界の要人に現地の悲惨さを知ってもらう計画なども進んでいて、その可能性は無限大。ゲームの枠を越えた新しいメディアとして、私たちの社会に大きな波が押し寄せてきている。

 上記で紹介した以外にも、多くの研究者や技術者が共通して、ゲームの技術はゲームだけでは終わらないと訴えている。これからよりゲームが便利で身近なものとして私たちの日常に溶け込んでいくのだという。どんな面白い未来がやってくるのか、いまから胸がワクワクしてくる。

文=愛咲優詩