今、すべての「ウマジョ」に伝えたい! 競走馬の「可愛さ」を追求した「ウマ愛」溢れる老舗作品!!

スポーツ・科学

2016/6/17


『馬なり1ハロン劇場 2016春』(よしだみほ/双葉社)

 現在、密かに競馬ブームが到来している。中央競馬で16年ぶりに誕生した女性騎手の藤田菜七子ジョッキーが注目されているが、要因はそれだけではない。「希代のクセ馬」として観客を沸かせた個性的な馬・ゴールドシップなど、数々の名馬がその人気を牽引したのだ。その甲斐あってか今では「ウマジョ」と呼ばれる女性ファンまで生まれ、競馬場に大挙して訪れるようになったのである。

 もちろん競馬はギャンブルだが、件の「ウマジョ」たちはバクチを打ちに来ているわけではない。彼女らは馬を「カッコイイ」とか「可愛い」といって、ゴール前でデジタルカメラを手に競走馬を撮影するなどして楽しんでいるのだ。このように競走馬を可愛いという感覚で捉えるなら、ぜひオススメしたいコミックがある。それは『馬なり1ハロン劇場 2016春』(よしだみほ/双葉社)だ。

 この漫画は1989年にスタートした、非常に息の長い作品だ。1989年といえば、芦毛のアイドルホースとして高い人気を誇った「オグリキャップ」が活躍した時代。つまりオグリキャップを中心とした人気馬をまさにアイドルのごとく、擬人化してとことん可愛く描くために生まれた作品といえる。

 そしてそのスピリッツは最新巻である本書においても変わらない。2015年の有馬記念─有馬記念とは年末に行なわれる1年の掉尾を飾るGI(日本で一番高いグレードのレース)─では出走した人気馬のゴールドシップを差し置いて、勝ったのは同じ「ゴールド」を冠するゴールドアクターだった。漫画でも勝ってしまって申し訳なさそうにするゴールドアクターを、ゴールドシップの祖父であるメジロマックイーンが激励する姿が可愛く描かれる。そう、かつてメジロマックイーンも1990年のGI菊花賞において、同じ「メジロ」の人気馬・メジロライアンを負かして優勝していたのだ。こういうドラマも、長年競馬を観続けているからこそ描けるのだろう。

 ところで、絵柄の可愛さからライトユーザー向けと思われそうな本書であるが、実は競馬通の諸氏にも十分楽しめる内容になっている。例えば2015年の菊花賞をテーマにした「盃のきずな」では、優勝馬のキタサンブラックと「金亀組」の大女将たちとのやり取りが描かれる。その大女将たちが「ダイナカール」「エアグルーヴ」「アドマイヤグルーヴ」の3牝馬。競馬を長くやっている人ならこの3頭が母娘であり、GⅠを勝ちまくった血統だと分かるだろう。そしてアドマイヤグルーヴを母に持つのが、2015年の皐月賞と日本ダービーを制し2冠馬となったドゥラメンテなのである。しかし同馬はダービー後に故障して、菊花賞には不出走だった。その辺の事情を任侠テイストで描いたのである。漫画としても普通に面白いが、そういう部分を知っていればさらに楽しめる、通好みの要素も満載なのだ。ちなみに「金亀組」というのはドゥラメンテの父・キングカメハメハが由来となっている。

 本書では大体2015年の10月から2016年の3月期までのレースをテーマに描かれているが、この間の情勢と現在の状況が比較できるのも面白いところ。例えば牡馬3歳クラシックとは先述した「皐月賞」「東京優駿(日本ダービー)」「菊花賞」を指すのだが、本書でクラシック最有力として登場するのはリオンディーズとエアスピネル。確かにこの頃まではそうだった。しかし結果としては皐月賞ではエアスピネル4着、リオンディーズ5着。日本ダービーも同じ着順で終戦した。半年も経たない間に、力関係は一変していたのだ。なのでダービー終了後、本書を読んでいて「こんな時期もあったなあ」と諸行無常な気分になったものである。

 今年の日本ダービーは入場者数が13万人にのぼり、競馬ブームを改めて裏付けた。当然、最近ハマった人も多いだろう。そういう人々、特に馬を追っかける「ウマジョ」の方々にはぜひ本書を読んでもらいたい。馬にアイドル性を求めるファン心理と、馬に愛情を注ぎ込んで漫画を描く作者の姿勢は、必ず通じ合うものがあるはずだ。そして馬たちの可愛さに、一層メロメロになっていただければ幸いである。

文=木谷誠