「雨脚」は止まない! 勘違いに御用心。知っているつもりで実は間違っている慣用句の使い方

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『勘違い慣用表現の事典』(西谷裕子/東京堂出版)

慣用句は日本で古くから言い慣わされてきた言葉です。しかし最近の若い世代では死語になりつつあるようで、周囲で聞いたり、自分で言ったりする機会も減って、「あれ、なんだっけ?」と悩んでしまうことってありませんか?

勘違い慣用表現の事典』(西谷裕子/東京堂出版)は、読み間違い、書き間違い、取り違えて誤用しやすい慣用句について、言葉の成り立ちから解説して、正しい書き方、読み方、使い方が身につく1冊です。

「自分は大丈夫」というそこの方も、試しにいくつか慣用句の正誤例を並べてみますから、ちょっと確認してみましょう。

advertisement

雨脚は止まない

✕雨脚が止む
○雨脚が弱まる

テレビの天気予報で「雨脚が止んで晴れ間がのぞき…」なんて聞きますが、これは誤用だとか。「雨脚」は、雨水が音を立てて降りながら雨雲が移動する様子を、足音を立てて走る人間にたとえたもので、正しくは「雨脚が強まる/弱まる」あるいは「雨脚が激しくなる」と用いるそうです。

浮気するのは男か女か?

✕女心と秋の空
○男心と秋の空

秋の天気が変わりやすいように、すぐに気が変わる女性の気持ちを「女心と秋の空」といったりしますが、実は正しくは「男心と秋の空」です。昔から浮気をするのは男性の側。清楚で一途な日本人女性は浮気なんてしないのです。でも現代の女性は違うかも?

議論が白熱することは?

✕喧喧囂囂(けんけんごうごう)と意見を戦わせる
✕喧喧諤諤(けんけんがくがく)と意見を戦わせる
○侃侃諤諤(かんかんがくがく)と意見を戦わせる

自分が正しいと思う意見を遠慮なく論じ合うという意味の「侃侃諤諤」。「侃」は強く正しい、「諤」は直言するという意味。「喧喧囂囂」は大勢の人がそれぞれ勝手に騒ぎ立てることで、「喧」も「囂」もやかましい、うるさいという意味。両方を含む「喧喧諤諤」も間違いで、そのような四字熟語はないのだとか。

神さまに祈るのはどんなとき?

✕困った時の神頼み
○苦しい時の神頼み

普段は信仰心のない人が、苦境や苦難に陥ったときに限って神仏に祈って助けを求めること。神さまでなくとも、いつもは懇意にしていない人に助けを求めるたとえにも用います。困っているには違いありませんが、「苦しい時の神頼み」が本来の言い方なのだとか。

発明の母となるのは?

✕失敗は発明の母
○必要は発明の母

発明は何かを必要としたときに生まれるものだという言葉。よく似た慣用句の「失敗は成功の母(もと)」とも混同しやすいので注意です。ただし現実では、失敗をきっかけに新技術や新商品が生まれることもあるので、失敗しても諦めないことが肝心ですね。

動かしたり、伸ばしたりするのは?

✕もうけ話に触手が動く
○もうけ話に食指が動く
✕IT関連企業に食指を伸ばす
○IT関連企業に触手を伸ばす

食べたいという気持ちが起こることから転じて、あるものを欲しがることを「食指が動く」といいます。「食指」は「人差し指」のこと。中国の春秋時代に、鄭の公子宋が君主の館に招かれた際に自分の人差し指が動くのを見て、これはご馳走が出てくる前触れだと言った故事から生まれた言葉なのだとか。

似たような慣用句で混同されやすい「触手を伸ばす」は、欲しいものを手に入れるために野心をもって相手に近づいて働きかけること。「事業を拡大するために、外資系企業に触手を伸ばした」のように用います。本書ではこのように似ている言葉も並列して解説しています。

うそがばれるのは?

✕すぐに底が知れる
✕すぐに底が見える
○すぐに底が割れる

「底が知れる」は、見た目は立派に見えていても中身はたいしたことがないと推測できること。「底が見える」は、言動の裏にある心が読み取れて見当がつくということ。うそや隠し事がばれるという意味で用いるのは「底が割れる」です。少しずつ意味合いが違いますから、どんな時に使うのかも覚えておきたいですね。

会話に応じるのは?

✕相槌を入れる
○相槌を打つ
✕合いの手を打つ
○合いの手を入れる

相手の言葉にうなずいたり、受け応えをしたりするのが「相槌を打つ」です。鍛冶場で、熱した鉄を師匠と弟子が息を合わせて交互に槌で打つことからのたとえ。「合いの手」は邦楽で歌や踊りに合わせて入る三味線や楽器の伴奏、手拍子や掛け声のことで、そこから会話や物事の進行を円滑にするために言葉をさしはさむことを「合いの手を入れる」といいます。

どうでしたか。本書では、この他にも多くの慣用句の事例や、言葉の成り立ちが1000語近く掲載されています。間違えて覚えてしまっていた人はもちろん、すべて正しく覚えていたという人も、普段使いの事典としてお手元に備えておいてはいかがでしょうか。

文=愛咲優詩