猫名言集の新たな楽しみ方を見つける。『猫を想うだけで、なぜ、こんなに幸せになれるのだろう』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『猫を想うだけで、なぜ、こんなに幸せになれるのだろう』(「猫を想う」委員会:編集/キノブックス)

古くは源氏物語にも、柏木が女三の宮を想うがゆえに、女三の宮の飼い猫をかき抱いて、残り香を嗅ぐシーンがありましたが、いまや猫そのものを恋い慕う人が増えました。慕う女性の残り香でなくとも、芳しき猫の香りを鼻にするだけで、猫を想い、愛らしく感じるものです。

「猫を想うと幸せになる」。そう感じる節は、猫と暮らしていると日々直面するものであります。こうしてPCの画面を前にして、カチカチと音を立てながら原稿を書いていると、足元にわが家の三毛猫が寄ってきて、「お前は、なぜ、このように晴れた日の日差しを浴びず、このような薄暗いところで、液晶の光を浴びておるのだ」という鋭い目を向けて、机や椅子の足にマズルを擦り付けるのであります。

適当にあしらっていると、しつこくこちらを指導するため、ノートPCから電源ケーブルを外して、猫の尻について行き、日なたぼっこに適した陽だまりの近くに座ると、「よし、わかればよろしい。教えてやらないと何もできない図体の大きなやつじゃ」といったメッセージを込めた上目遣いの視線を寄せながら、陽だまりに丸くなり、キーボードのカチカチ音をBGMにすやすやとお昼寝を始める次第です。

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「ああ、猫は気ままで自由に生きているとよくいわれるが、猫は猫なりに、人間の世話で忙しいのだな」と思いながら、この原稿も書き進められているわけです。

そのように、ふと感じられた瞬間の想いを凝縮した一言や、猫にまつわることわざを、美しい猫写真とともにまとめたのが、こちらの一冊『猫を想うだけで、なぜ、こんなに幸せになれるのだろう』(「猫を想う」委員会:編集/キノブックス)です。

ページをめくると、どアップの猫写真に付随する、世界の文豪や著名人、日本の作家などが猫に想いを寄せた言葉。通常ならば活字だけですが、猫の顔を見ながら読むとまた違った味わいを楽しめますね。知っている言葉やことわざも猫が再発見させてくれるわけです。

本書でも取り上げられている、アーネスト・ヘミングウェイの名著『誰がために鐘は鳴る』の一節を見てみましょう。

―動物のなかじゃ猫がいちばん自由を持ってるわけだ。猫はてめえのきたねえものを埋めるからだ。猫が、いちばんりっぱなアナーキストだ。

(原文:−No animal has more liberty than the cat; but it buries the mess it makes. The cat is the best anarchist. )
(訳文は、新潮文庫『誰がために鐘は鳴る(下)』 P271より)

「猫は自由だ、アナーキストだ」という有名な一文です。ちなみになぜ猫が自由かというと、直前にこう語られています。

−てめえのひりだしたきたねえものを埋めもしねえことが自由ってもんじゃねえだ 。
(原文:−It is not liberty not to bury the mess one makes, he thought. )
(訳文は、新潮文庫『誰がために鐘は鳴る(下)』 P271より)

つまり「猫だってちゃんと自分で後始末をするぞ。そういうことさえできないやつは信用ならねぇ」という意味です。こうして原典をたどると、さらなる発見が楽しめるわけです。

惜しむらくは、末尾の参考文献や引用文献を見ても原典がわからない点ですが、本書をきっかけにして、猫を想う文学作品やことわざの意味をたどる旅を始める楽しみを残してくれたと、前向きに解釈しておくのがよろしいかと思います。

文=猫ジャーナル