シンプルに、でっかく儲ける! 地方経済の主役『ヤンキーの虎』とは?【著者インタビュー】

社会

公開日:2016/6/28

 コンビニに洋服量販店、ファミレスに漫画喫茶と、地方都市の国道沿いにはどこにでもあるチェーン店が並んでいて、まるで個性が感じられないと言われていた。しかし時には、パチンコ店の駐車場の一角で焼き立てパンを売っていたり、ガソリンスタンドとスーパーがくっついていたりと、趣向をこらした業態も見られる。そしてこれが地元では結構受け入れられていて、お客さんがひっきりなしに訪れたりしている。地方ビジネスは衰退する一方と思われがちだけど、なかにはこのように貪欲に広げることで気を吐いている「ジモト企業」もあるのだ。

 これらは一体、どんな人が経営しているのだろう? それは「ヤンキーの虎」だと、『ヤンキーの虎 ――新・ジモト経済の支配者たち』(藤野英人/東洋経済新報社)の著者で、ファンドマネージャーの藤野英人さんは言う。藤野さん曰く、ヤンキーの虎とは

「地方を本拠地にしていて、地方でミニコングロマリット(様々な業種・業務に参入している企業体)化している、地方土着の企業。あるいは企業家」

のことだそうだ。

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 藤野さんはレオス・キャピタルワークスという投資信託会社の代表として、地方での勉強会や講演を20年にわたり続けている。全国各地の経営者と名刺交換するなかで、気づいたことがある。それは地方の中でもベンチャーマインドの強い人が一定数いて、彼らが地元で成功を収めていること。彼らとの出会いを通して、地方創生に向けた取り組みや提言についてまとめた本書には、ギラギラしつつもイキイキと活躍するヤンキーの虎たちの姿が書かれている。ちなみにヤンキーの虎は、地方で生まれ育ち、都会に対する憧れをあまり持たず、地元で働いてその生活に満足している「マイルドヤンキー」(命名は『パリピ経済』著者の原田曜平さん https://ddnavi.com/news/306461/)たちを束ねる存在でもあるのだ。

 そこで今回は藤野さんに、「ヤンキーの虎」との出会いと、なぜこの本を書きたいと思ったのかについて、インタビューすることに。というのも多角経営企業は昭和の頃から地方では当たり前だったから。なぜ今、注目したのだろう?

藤野英人氏

「この本の特徴は、いわゆる多角経営ビジネスに取り組む社長たちを、地方経済を語る上で無視できない存在だと指摘したことだと思います。地方に講演で訪れた際には、懇親会参加者と名刺交換をするのですが、『不動産賃貸業』『パン製造・販売業』『携帯電話販売代理店』『保険代理店』など、肩書が複数ある人にたくさん出会ってきました。1人の社長がいくつもの業態を手掛けるのは、地方では昔から当たり前でしたし、新規性に乏しい企業が多いので、マスコミや機関投資家などからスルーされてきたところがありました。でも彼らのような人は全国各地にいて、たいてい羽振りがよくて、良いスーツを着て良い車に乗っている。21世紀に入ってから衰退する地方ビジネスの中で、彼らの存在はスルーできないと、今改めて気づいたのです。すでに『地方豪族』という言葉がありましたが、僕はリスペクトを込めて、『ヤンキーの虎』と呼ぶことにしました」

 ヤンキーの虎が求めるのは、都会で一旗揚げてやる系ベンチャーにありがちな「今までにないビジネス」ではなく、「シンプルで、でっかく儲けられそうなもの」。儲かりそうだと思ったらすぐに始めて、見込みがないと気づいたら業態転換を厭わない。そしてパチンコ店やラブホテルなど、どちらかというと他人に説明しにくい業種でも、臆することなくチャレンジしているのも特徴だという。彼らは学生時代の部活仲間や親から引き継いだ地縁血縁などのネットワークで商売をし、どんどん勢力を拡大しているそうだ。

 ではヤンキーの虎はなぜ、地方経済に欠かせない存在になれたのか。そのきっかけは「小泉政権時代の小泉改革」だと、藤野さんは分析している。

「小泉政権時代に起こった金融危機により、銀行が『貸し渋り』や『貸しはがし』をおこなったことで、地方経済は大打撃を受けました。地方のガソリンスタンドや土木建築業、商店街のお店などがどんどん潰れていくなか、『座して死を待つわけにはいかない』と立ち上がり、『既存の業種で食えないなら、別のことをやればいい』と目覚めた人たちがいたのです。そんな新規事業を始めたヤンキーの虎たちが、働く場所を失っていたマイルドヤンキーたちをスカウトして、新ビジネスの体制を整えていきました。

 同時にこの頃(2000年代初め)、爆発的に携帯電話が普及し始めました。それをチャンスだとして携帯電話販売ビジネスに活路を見出し、成功した虎も多いのです。さらに創業者たちの高齢化が始まり、会社を引き継いだ二代目や三代目が新規事業に参入したことも、追い風になりました。彼らのようにリスクを取る勇気と、ほんの少しのビジネスセンスがあれば、地方では『一人勝ち』ができるのです」

 今は羽振りがよく、ウハウハ(死語……)なヤンキーの虎だが、団塊世代が後期高齢者となる2025年以降は、彼らのマーケットも縮小する可能性が大きい。以降は虎同士が食い合い、弱い者は淘汰されるようになるかもしれない。しかしその一方で虎同士が連携して「関東虎連合」のようなネットワークを生み出し、ビジネスが継承される可能性もあるという。

「虎同士のバトルは起こるとは思いますが、虎は地元との結びつきが大きいので、互いの利害を調整してサバイバルを考えていくのではないでしょうか。彼らは腕と力で生きてきた人も多いので、すぐにダメになるほど脆くはない。むしろリスクを取らず、安定志向で冒険をしない経営者の方が、先に潰れると思います。

 2025年ごろの日本経済のイメージは、『応仁の乱』の後に近い気がします。焼け野原で立ち上がった地方豪族が足軽を引き連れて、夢も希望もないと思った社会で『天下取ったる!』と勢力を伸ばしていって、全国統一されていく。そんな状況になると思います」

 藤野さんはこの本を、まずはメディア関係者に読んでもらいたいとの思いで手掛けた。なぜならヤンキーの虎たちは、情報にお金を払うことを厭わず、気に入れば講演会やイベントにも足繁く通ってくれる。情報はタダだと言わんばかりにネットばかりを見て、それを鵜呑みにする層とは一線を画しているからだ。そして同時に、今まで日の目が当たらなかった仕事をしている人たちへの、応援メッセージのつもりで書いたとも語った。

「虎の事業は新規性が薄いことも多いので、上場していても、総じて株価水準が低いんです。でも不況と言われる中でも増益を誇っている会社も多いので、『よくある地方ビジネスか』と軽んじないで、ぜひ注目してほしい。そして一番言いたいのは、『ビジネスに貴賤はない』ということです。都会のオフィスでカッコよく仕事をすることだけが素晴らしいのではなく、地方で泥臭く働き、それこそ3K扱いされる業種であっても、素晴らしい企業はたくさんあります。もちろん他人を搾取する企業は論外ですが、ややもすると見下されてしまう業種であっても、リスペクトをもって接することの大事さに、気づいてほしいと思います」

取材・文=朴 順梨