『自殺島』森恒二が語った、 親友・三浦建太郎が映画館で激怒!? 「あれはホント怖かった(笑)。」【Episode 2】

映画

更新日:2021/5/20

 漫画『ベルセルク』で知られる漫画家の三浦建太郎先生が5月6日、急性大動脈解離のため亡くなったことを白泉社が公式サイトで発表。心からご冥福をお祈り申し上げます。

【Episode 1】『自殺島』森恒二「僕らの世代は、スター・ウォーズに“調教”されてるんです」

温厚な三浦建太郎先生が激怒!?

 三浦くん(※1)と出会ったのは高校生のとき、同級生なんです。それはもうオタクとオタクの合体ですからね、ずーっとスター・ウォーズの話をするんですよ。それこそ延々と!

advertisement

 三浦くんってすごく温厚で真面目で、問題起こしたことがほぼないっていう優等生、逆に僕は退学スレスレの停学生だったんですけど、映画は三浦くんといつも一緒に見に行ってたんです。見終わるとあれはどうだった、とか喧々諤々やるわけですよ。そして忘れもしないのが高3のとき。三浦くんと一緒に新宿の映画館へ行ったんです。本編が始まる前にやるコマーシャルや予告の間って、まだ客席はざわざわしてますよね。そしたら突然『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』の予告が始まったんですよ! すると温厚で真面目な三浦くんが、前の方で騒いでいたヤツらに「おい! 静かにしてくれよ!!」って怒って、周りがシーンとなったんです! 「凄いな三浦、気合入ってるな」って言ったら「当然だろ」って。三浦くんが怒ったのって、後にも先にもあのときだけ。あれはホント怖かった(笑)。

森恒二氏

 1983年頃はビデオデッキがまだ家庭に1台あるかどうかという時代で、今みたいにテレビでじゃんじゃん映画の放送もやってない、ネットもないから新作の映像も見られなかったんです。だから待ちに待った、3年ぶりのスター・ウォーズの映像なんですよ! しかもあの「次回をお楽しみに」の続きで、その日にまさか予告があるとは思ってないところへ「ジャーン!」って! スター・ウォーズのテーマが鳴った瞬間、僕らの血は沸騰しましたねぇ~。それが初めて『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』の映像を見た瞬間でした。あの当時は20世紀FOXの「チャンチャラチャーン」という音が鳴ると、体が反応するんですよ、その後にスター・ウォーズの予告が来やしないかと。犬みたいな「待て」の状態になっちゃう。そのくらい調教が済んでるんです(笑)。

 『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』はもちろん三浦くんと観に行きました。本当はいけないんですけど、映画が終わっても僕らは座席に居座ってましたね。当時の映画館って、混むと入れ替え制だったんですが、僕らは席を動かず、お互い何も言わずに2周目突入、阿吽の呼吸ですよ(笑)。これは僕らの映画を見るルールだったんですが、いいなと思ったら無言で居座る、ダメなのはすぐ席を立つ、どっちかなと思ったら「どうする?」って顔を見合わせるんです。その頃はビデオソフトが出るのが遅いんで、とにかく映像を心に焼き付けておかないといけないんですよね。ちなみに三浦くんと無言で2周目に突入したのは『風の谷のナウシカ』(※2)とスター・ウォーズだけでした。

新作はキャラクターの「内面」を描いている

 もちろん映画は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』まで、あとは『クローン戦争』とかアニメまでほぼほぼ見てますね。実はアニメまで手を出した理由は、アナキン・スカイウォーカーがダース・ベイダーになる過程を描いた『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』から『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』の新三部作だけでは、個人的にストーリーに納得出来なかったからなんです。あんなに恋い焦がれた、自分の親父よりも信用しているくらいな恐怖の大将ダース・ベイダーが、まさかこんな簡単に転ばないだろう、と!(苦笑)それでアニメを見たら、アナキンが「こんなぬるいことやってたら共和国はダメになる」と考えたり、悲惨な目に遭ったりして、だんだん右翼思想が形成される過程が見られたので、ようやく納得できました。

 それからもうひとつ、これは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開前に三浦くんと話していたんですけど、今回からスター・ウォーズがディズニーと組むということで、表現がどうなるのかなと思ってたところも正直あったんです。三浦くんは、もしかしたらこれまでのスター・ウォーズで描かれていた悪の描写だったりビビッドな部分が、子ども向けという観点からなくなってしまうのではないか、だから俺は半分以上心配だ、期待し過ぎると裏切られるから……ってブチブチ言ってたんです。それで今回は僕が仕事が忙しくて一緒に映画館へ行けなかったので、感想を聞こうと三浦くんに電話したら「いや、よかった! 攻めてたよ!」って嬉しそうに言ってて……なんだコイツ、って思いましたけど(爆笑)、確かにトルーパーのヘルメットにベトッと血がつくシーンとかありましたし、かなり攻めてるなと思いましたね。

 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は、これまで以上にキャラクターの心情、内面を描こうとしてると感じました。主人公のレイとフィンの生い立ちが謎のところとか、ソロの息子が暗黒面に落ちてる苦しみとか、レイがルークのライトセイバーを持った時に色んな出来事が体に流れ込んでくるシーンとか、とても日本的な物語の描き方だなと感じました。

 実は部屋に大画面のテレビがあるんですけど、これは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を見るために買った、と言っても過言ではないんですよ。映画館に行けなくても映画を楽しめるように、無理して買いました(笑)。いやー、刮目して見ましたよ、大音量で。うわーっていいながら、心ゆくまで楽しみました! でもなるべくなら次回作は映画館で見たいですねぇ。

 しかしスター・ウォーズは僕が子どもの頃からずっと作り続けられてるっていうのが凄まじいですよね。まさかこの歳になって新作が見られるとは思ってもみなかった。これは死ぬまで新作が見られるんじゃないか、となるとしっかり長生きしないとな、と思いますね(笑)。

→連載中の『自殺島』にもスター・ウォーズは多大な影響を及ぼしている? 次回エピソード3で、いよいよ森恒二先生のトリロジーインタビュー完結です!

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)

※1 三浦建太郎…マンガ家。1966年千葉県出身。日本大学藝術学部美術学科卒。大学在学中より商業誌で活躍、1989年から『ベルセルク』を連載中。6月24日、3年ぶりに『ベルセルク』38巻が発売、『ヤングアニマル』誌上での連載も再開した。また7月から『ベルセルク』のアニメ化もスタートする。

※2 風の谷のナウシカ…宮崎駿によるマンガ作品。1982~94年に『アニメージュ』に連載。科学文明を崩壊させた「火の7日間」後に出現した新たな生態系と厳しい自然の秘密に迫っていく主人公ナウシカの戦いを描く。84年に宮崎監督によってアニメ映画化され、後に設立される「スタジオジブリ」を支えるスタッフが集まった。

 

<プロフィール>
森恒二(もり・こうじ)1966年東京都生まれ。日本大学藝術学部美術学科卒。広告業界でイラストレーターとして活躍後、マンガ家となる。2000年『ヤングアニマル』で『ホーリーランド』の連載を開始、テレビドラマ化されるなど人気を集める。08年より同誌上で『自殺島』を連載中。10年からは『週刊ヤングジャンプ』に『デストロイ アンド レボリューション』も連載中。

【関連記事はコチラ】
『ベルセルク』三浦建太郎が受けた『スター・ウォーズ』の衝撃!<1>
『ベルセルク』三浦建太郎「『スター・ウォーズ』は日本人のコンプレックスを毎回刺激してくるんですよ」<2>
『ベルセルク』三浦建太郎 「ジョージ・ルーカスが“物語を作る基本”を教えてくれた」<3>