初恋の相手は、「自動販売機」!? 青春を自動販売機に捧げた、甘酸っぱくも切ない話題のWEB小説が書籍化

文芸・カルチャー

2016/6/30


『幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。』(二宮酒匂/KADOKAWA)

「好きになってはいけない」と思った時には、人はもう戻れないほど、恋に溺れてしまっている。愚かなほど分別を忘れ、始終相手のことを思い続けてしまうような恋。そういえば、久しくそんな思いを抱いていないという人も多いかもしれない。今、恋をしている人にもしていない人にも、誰かを好きになるということの美しさを感じさせてくれる本がある。「幼なじみへの恋心を描いた物語」というと、ありきたりなものに感じるかもしれないが、この本の恋のお相手は、「自動販売機」!? 青春すべてを「人ならぬもの」への恋に捧げた男の物語が今、大きな話題を読んでいる。

二宮酒匂『幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。』は、WEB上で話題を呼び、このたび書籍化が決まった恋愛小説。インパクトのあるタイトルから、コメディをイメージする人も多いだろうが、想像を超えるほどの主人公の甘酸っぱくも切ない恋心に、思わず、惹き込まれてしまう。

主人公の「ぼく」は、神官の家系に生まれたせいなのか、幼稚園の頃から、町のおんぼろな自動販売機のそばにたたずむ和服の美女が見える。年は20歳ごろ。緋色の小紋を細身にまとい、帯は綸子の灰白色。ふっくらとはりつめた胸に両手をかさねて置き、自動販売機の前で晴れやかに歌声をつむぐ彼女はどうやら「自動販売機をサポートするために存在する付喪神」らしい。最初は警戒し、除霊しようと塩まで投げつけた「ぼく」だが、次第に彼女と打ち解けていく。小学生、中学生と成長し、次第に「ぼく」は恋心を自覚し始める。高校、大学に進み、思いを断ち切ろうと、彼女から距離を置き、普通の人間との恋を楽しもうとするが…。一体、彼にどんな運命が待ち受けているのだろうか。そして、自動販売機の寿命が近づいた時、「ぼく」がとった行動とは?

主人公と「自動販売機の精」は、嬉しい時も、悲しい時もずっと一緒に過ごしてきた。主人公が悲しみに暮れている時は、そっと寄り添い、力になろうとしてくれた。時には、言い争ったこともある。見た目は、「年上風の艶っぽい和装美人」なのに、「ぼく」と言い争う時は、子どもそのもの。そんな愛らしい存在がそばにいたら、恋に落ちてしまうのも無理はない。見た目の年齢は変わらない「自動販売機の精」とその年齢に次第に近づいていく主人公。どうやら「自動販売機の精」は、彼のことを恋愛対象としては見ていないらしい。主人公の恋心はどうなってしまうのだろう。やり場のない思いに胸がぎゅっとしめつけられる。

“……こっちはもうすぐ成人だ、歳を取らないおまえの外見年齢をもうすぐ抜くんだぞ”
“俺たちはもう並んでも姉弟には見えない。俺は弟として扱われたいんじゃない”

こんな不思議な自販機があなたの町のどこかにあるかもしれない。そう思うと見慣れた道を歩くのも何だか楽しい。私にも幼なじみの自動販売機がほしい…!そして、甘酸っぱくて切ない恋をしたい…!大人になるにつれて忘れてしまった大切な感情を思い出させてくれる、青春が詰まった1冊。

文=アサトーミナミ