貴志祐介「密室トリック」の本流に挑む!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

 貴志祐介の新刊『鍵のかかった部屋』(角川書店)は、題名が示すとおり、全4編が密室ものという期待を裏切らない内容だ。
  
弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径が活躍する密室ミステリー第3弾となる今回は直球勝負。施錠された家屋、密閉された部屋といった、密室トリックの本流に挑む内容のものが多いのが特徴だ。
  
 「探偵役が防犯コンサルタントですから、通常考えられる可能性を物理的に全て潰してしまいたいと考えました。その上で何を仕掛けられるか、という趣向の勝負だなと」と貴志さん。
  
 表題作「鍵のかかった部屋」では、施錠され、中がビニールテープで目張りされた気密密室で被害者が一酸化炭素中毒死を遂げるという事件が起こる。
  
 「完全に密封してしまったときには、そうでない場合と比べて別の効果が何か出てくるでしょう。そうしたコンビネーションを書いてみたかった。いくつかのトリックを使って、それが有機的につながるといいなと」
  
 貴志さんの手元には密室トリックのネタがいくつもファイリングされて出番を待っているという。貴志さんはそれらをピスタチオナッツを食べる行為に喩える。
  
 「簡単に割れやすいものばかり食べていると、残るのは難しいものばかりなんですよ(笑)。今回一番割りにくかったのが『鍵のかかった部屋』のトリックです。すべてのトリックが融合するまでに時間がかかりました。この連作の場合、トリックが形をなせば小説としてはほぼ完成に近いんです」
  
 そんな貴志さんは、現在、2つの新連載を開始したところ。一つは『小説現代』(講談社)での、SF『新世界より』の前日譚に当たる話、もう一つは『ランティエ』(角川春樹事務所)で、“前世の記憶”という、これまでは扱ってこなかったオカルト的な題材をとったものである。本シリーズの続編もなるべく早く書いてもらいたいものだが……。
  
 「ホラーなどの別ジャンルでも短編を書いてみたくなってきているので、次は少し間隔があくかもしれません。なにぶんトリックありきのシリーズなので、うまくピスタチオが割れたら、また戻ってくると思います」
  
(ダ・ヴィンチ9月号 今月のブックマーク EXより)