お巡りさんにプロポーズ? 思わず酔いも冷めそうな、お酒での失敗エピソード

暮らし

公開日:2016/7/3


『酔って記憶をなくします (新潮文庫)』(石原たきび/新潮社)

 学生時代、酔態の研究をされている方のお話を伺う機会がありました。お酒に酔った状態での身体の動きや、酩酊状態で犯した失敗についての情報を集めているとのこと。普段は大学で研究をされているそうですが、映画やドラマなどの撮影現場で、酔っぱらいの演技指導を担うこともあるんだとか。色々な世界にプロが居るものだなあと、感銘を受けた覚えがあります。

酔って記憶をなくします (新潮文庫)』(石原たきび/新潮社)はそのタイトル通り、お酒による失敗談を集めた本。ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」内の「酔って記憶をなくします」コミュニティに寄せられた、珠玉のやらかしエピソードが満載の1冊です。多くはクスッと笑える内容なのですが、中にはちょっと、告白者の身が心配になってしまうものも…。とりあえず、可愛らしいものからご紹介いたしましょう。

 酔って帰ってきて、扇風機に延々と話しかけていた事があります。
 扇風機の正面に座り、「いや、だからオマエは何で首振ってるだけなわけ?」「縦に振るのは無理なん?」「熱い風は送れんの?」「聞いてる?」。実家なので、おかんが一部始終を見ていたらしいです。「長いボケやなぁ」と思ってずっと止めずに見てたとのこと。
 見られたのが肉親なだけに、なかなかイタい失敗でした。(YASS 28歳 男)

 ああ、扇風機がかわいそう。そんな説教を喰らっても、「ぶおーん」ぐらいしか返事できないでしょう、扇風機だし。それなりに恥ずかしい光景ではありますが、温かく見守っていたお母様の姿を想像すると、微笑ましくも思えます。

advertisement

 投稿者の方は「イタい」と表現されていますが、目撃されたのが身内だったのは、考え様によれば不幸中の幸いだったかもしれません。これが友人知人だと、披露してしまった醜態によっては 、その後の付き合いに影響を及ぼす可能性があるからです。例えば、こんなふうに…。

 男友達と居酒屋に行ったときのこと。
 私は何も食べずに、生ビールを駆けつけ3杯。彼が「何か食べないと酔うよ」と言ってきても断り、さらにガンガン調子に乗って飲んでいたら記憶が飛びました。
 朝、目が覚めると自宅。怖くなって携帯の履歴を調べると、その男友達から「手錠の鍵、どこ!? ほんとに恥ずかしいから早く持ってきて!」というメールが届いていました。どうやら、彼に手錠をかけたまま、「すぐ帰ってくるからね」と笑みを浮かべて立ち去ったらしい。
 その男友達とは今は音信不通。申し訳ない気持ちでいっぱいです。(龍虎苺※$цм13 35歳 女)

 そりゃ音信不通にもなるでしょう。一晩手錠を掛けられたままでは、お風呂にも入れませんよね。というか、なぜ手錠なんて持ち歩いていたんでしょうか。どう使う予定だったんでしょうか。そこはツッコんじゃダメですか。

 世界のどこかでは今日も、お酒が人間関係にヒビを入れていることでしょう。しかし一方で、お酒が取り持つ縁というものもあるようです。

 酔っぱらって交番のお巡りさんにプロポーズしたら、そっこーで「嫌です」と断られました。
 それでもめけずに、近所の飲み屋のマスターに紹介するために連行しようとしたら、「職務妨害だ!」と怒られました。その日以来、顔を覚えられ、会うと「お前、拳銃持ってないのか?」「拳銃を持ち歩くほど危険な任務はない!」「じゃあ、その警棒で勝負しない?」「俺に勝てると思ってるのか!」などと軽口を言い合う仲になりました。
 しかし彼は、やがて別の交番に転属されていきました。(ポクテ 40歳 女)

 懐の広いお巡りさんとの仲睦まじいやりとりには、青春時代の思い出のような甘酸っぱさすら感じてしまいます。別れの場面まで打ち明けられているのが、何とも切ない。お酒による多幸感が少しずつ覚めていくような、センチメンタルなお話でした。

 ビアガーデンが賑わう季節、お付き合いでお酒を嗜む機会も増えることでしょう。勿論、程々に楽しむのが一番ではありますが、もし、酔ってやらかしてしまっても大丈夫。落ち込む前にこの本を開いてみてください。あなたを超える強者に、きっと出会えるはずですから。

文=神田はるよ