イラストが演じる落語は真打ち級! 春風亭昇太師匠が監修した古典・新作42話から入る落語の世界

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公開日:2016/7/3


『今日も落語に行ってきます!』(先斗ポン太:イラスト・文/秀和システム)

 日本テレビの『笑点』では、50周年の今年、人気コーナー「大喜利」の司会者が春風亭昇太師匠に変わり、新しく林家三平師匠がメンバーに加わった。豪華すぎるほどのメンバーがそろっている笑点だが、この番組を毎週欠かさず観ているファンの中にも寄席で彼らの生の落語は見たことがないという人がいるかもしれない。そこで、今回は『今日も落語に行ってきます!』(先斗ポン太:イラスト・文/秀和システム)を紹介する。

入門にふさわしい42話を昇太師匠が厳選

 この本の著者はイラストレーターの先斗ポン太氏。「好きな落語のストーリーやお気に入りの落語家をイラストと文で紹介したい」と思ったのがこの本が作られたきっかけだ。しかし、江戸落語には何百もの演目があって、落語の専門家ではないイラストレーターのポン太氏には入門にふさわしい演目を選びきれなかった。そこで監修にあたったのが笑点の大喜利6代目司会に選ばれた春風亭昇太師匠。

 まずはポン太氏がお気に入りの演目を選び、その中から昇太師匠が掲載する42話を厳選した。定番の古典落語だけでなくレアな新作落語も選ばれているから、老若男女どんな人でも聞きに行ってみたいと思える演目が見つけられそうだ。

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上手な落語家の演目は情景が目に浮かぶ!

「イラストで落語」というと、落語の演目が長々と文章で書かれていて、そこに挿絵が添えられている様子を想像するかもしれない。しかし、この本はそんなありきたりな落語入門書ではない。イラストが咄家の代わりに演目を演じているのだ。帯に書かれている昇太師匠の言葉を借りるなら、お客さんの頭の中に場面をくっきりと描かせることができるのが上手な落語家の条件。その意味ではイラストほど上手な落語家はいないのだ。

 確かにイラストで見れば小難しそうに感じられる落語の内容もわかりやすい。たくさんの演目の中から1つでもおもしろそうだと感じる演目が見つかれば、それを聞きに寄席に足を運びやすくなりそうだ。

聞いてみたい落語家を見つけるのも1つの手

「この落語家さんの話を聞いてみたい」と思うことが、落語に興味を持つきっかけになることもあるだろう。この本には江戸落語の代表的な落語家32人についてもイラストメインの紹介文が掲載されている。よくありがちなプロフィール紹介ではなく、思いっきりポン太氏目線の紹介だ。

 似顔絵の横に手書き文字で落語ファン目線の紹介文が添えられている。笑点メンバーの中からは、本書の監修を務めた春風亭昇太師匠を初め、先代の大喜利司会者・桂歌丸師匠、三遊亭小遊三師匠、林家たい平師匠が選ばれた。親しみの感じられるイラストと紹介文で「この落語家さんの話を聞いてみたい」と思ったら、思い切って寄席に足を運んでみてはどうだろうか。寄席に足を運んで実際の演目を耳にしたら、落語家ごとに異なる魅力があることにも気付くはずだ。

「寄席を見てみたい」がきっかけになるかも

 落語の演目やそれを演じる落語家のことだけでなく、寄席についても詳しく解説されているのがこの本の興味深いところだ。「上野鈴本演芸場」や「浅草演芸ホール」など東京にある寄席は、どれも昔の雰囲気がそのまま残っているから、寄席の中を見に行くだけでもおもしろそうだ。寄席の様子が描かれたイラストと実物を見比べてみようと足を運ぶことが、生の落語にはまるきっかけになるかもしれない。

 他に講談や色もの、お囃子についてもイラストで解説されている。生の落語を聞いたことがない人でも、寄席に足を運ぶきっかけになりそうなことは案外たくさんあるようだ。落語そのものの内容を詳しく解説するだけが入門書の役割ではない。生の芸を見ればその魅力がわかるのなら、寄席へ足を運ばせるのも入門書の大事な役割だろう。そういう意味ではこの本ほど落語入門にふさわしい本はないのかもしれない。

文=大石みずき