SFとは「ステキなフィクション」! 人気声優・池澤春菜がいざなうSFの楽しみ方

文芸・カルチャー

2016/7/4


『SFのSは、ステキのS』(池澤春菜/早川書房)

SFといえば映画やアニメ、マンガでも定番の人気ジャンルである。しかしAmazonの2016年上半期売上トップ20を見ても、SF小説はランクインしていない。もしかしてSFは、こちらが思っているほど人気がないのか? そう思う一方で、読者がSF小説に対して難しそうだというイメージを持っている可能性も考えられる。もし仮にそれが正しく、読者諸氏の中でSFに苦手意識を持つかたがいるのなら、是非ともこの『SFのSは、ステキのS』(池澤春菜/早川書房)を手に取ってほしい。

本書は『S-Fマガジン』(早川書房)で連載中のエッセイをまとめた一冊である。作者の池澤春菜氏といえば、人気声優として既に20年のキャリアを持ち、歌手としても活躍。更に小学生時代より培った驚異的な読書量を誇ることでも知られる。実は父が作家の池澤夏樹氏であり、春菜氏は幼い頃よりその書棚にある幾多の本たちに馴染んでいたのだ。当時から活字中毒だったと語るその読書愛から、近年はエッセイスト、書評家としても活躍している。

そんな彼女が愛し続けているのがSF作品だ。父の書棚に並んだ「ハヤカワの青背、創元のピンク、サンリオの白というトリコロールカラーに人生を決定づけられた」と語り、中でも特に翻訳SFがお気に入りという。春菜氏にとってSFとは「S:ステキなF:フィクション」を指す。勿論、本来ならSFは「サイエンスフィクション」の略語だが、そんな枠に囚われないのが彼女独特の感性といえる。

「そこに溢れる浪漫がなくちゃ」──春菜氏はこうも語る。SFにおけるサイエンスとは、夢想への合理的説明の手段である、と。なるほど、確かにそうかもしれない。実はこの記事を書くにあたり、往年の名作SFテレビドラマ「スタートレック」シリーズを3本見てきたのだが、いずれも描かれているのは人間模様であり、サイエンスは宇宙時代の人間を存分に描き出す為の舞台装置であることを改めて思った次第である。

そして彼女は「世界中で一番夢見がちな作家が描く希望と可能性を扱った文学こそが、SF」だとも述べている。振り返れば昔はSFの世界だと思われていた技術が、どれだけ実現してきただろうか。例えば腕時計型の端末で行なわれるビデオ通話は『ウルトラセブン』に登場した腕時計型映像通信端末「ビデオシーバー」を思い出し、米軍の輸送機V-22オスプレイを見たときは『帰ってきたウルトラマン』の航空機「MATジャイロ」をイメージした。またシャープの「ロボホン」をデザインしたことでも知られるロボットクリエイター・高橋智隆氏は『鉄腕アトム』からロボット製作へ興味を持ったと語っており、なるほどSF作品が現実に多大な影響を与えていることがよく分かる。

本書には作者のSF愛が盛りだくさんに詰まっているが、SFとは直接関係ないエピソードも混じり、バラエティーに富んだ内容となっている。例えば、秋葉原のはんだづけカフェ。春菜氏はそこで編集者らと共に電子オルゴールキットを組み立てるのだが、お約束というべきか一筋縄でいかず、スイッチを入れた途端に装置から煙と異臭の大騒ぎ。いわゆる博士物コントでお馴染みの爆発オチのようだ。この他にも話題はクトゥルー神話だったり、古今東西のお化けだったり、きのこだったりと多岐にわたる。また各エピソードに添えられたCOCO氏の4コママンガも実に楽しい。それら全てを受け止めてしまうほど、SFの懐は深いのである。

このように春菜氏の軽やかな語り口と、SFへのさまざまな視点からの楽しみかたが示されている本書。読み進めるうちに、SF小説に対する興味がきっと湧くはず。独特なSF用語への不安も巻末の用語解説が役立つだろう。本編で語られた作家や作品の端的な解説が主だが、ガンダムなどのアニメネタもちりばめられて気軽に楽しめる。勿論、肝心の解説もしっかりしているのでご安心を。本書を水先案内人に「S:ステキなF:フィクション」を楽しむ人々が増えることを期待したい。

文=犬山しんのすけ