戦中戦後からファッションの夢を追いかけ “花嫁衣装”で一時代を築いた女性2人の物語

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14

いつの時代もファッションは女性の最大の関心事のひとつ。流行やお洒落が好きな女性たちの飽くなき購買欲求が日本経済の一部を支えているといっても過言ではないだろう。

もちろん、普段着はデニムにTシャツというミニマリストもいれば、季節ごとに服を買い足すような無駄使いはしない堅実派もいる。

しかし“花嫁衣装”だけは特別。一生に一度は綺麗な花嫁衣装を着てみたい、自分が一番きれいに見える花嫁衣裳にこだわりたい。そう思ったことのある女性は多いのではないだろうか。

advertisement

玉岡かおるさんの『ウェディングドレス』(幻冬舎)は、そんな“花嫁衣装”で女性たちの夢をかたちにして一時代を築いた女性2人の人生を描いた物語だ。

ひとりはウェディングドレスのデザイナーとして国際的に活躍する佐倉玖美。もうひとりは婚礼貸衣装業で和装の結婚式のスタイルを築いた服飾研究家の田代窓子。この2人が数十年ぶりに再会し、思い出を語り合う場面からはじまる。

生い立ちも性格も対照的な2人は女学校時代に出会い、戦時中にファッションへの夢や希望を語り合う仲だった。しかし日本は太平洋戦争に突入して学校の授業も軍国主義一色に。少女たちも否応なく勤労奉仕に従事させられる。

終戦を迎え女学校を卒業した2人はそれぞれの道を歩きはじめるが、当時の日本は女性の自立に批判的な封建社会。そんななか、単身パリへ留学して服飾デザインを学んだ玖美と、父と約束した見合い結婚をして商家の嫁になった窓子の人生は明暗がはっきりとわかれていく。

ファッションデザイナーとして世界に羽ばたく玖美と、嫁ぎ先で理不尽な目に遭う窓子。しかし窓子も夢をあきらめずに小さな洋裁教室を営んでいたことが、婚礼貸衣装業の成功へとつながっていくのだ。

玖美のモデルは現役ファッションデザイナーの桂由美

玖美のモデルは、84歳の今も現役のウェディングドレスデザイナー桂由美さんだ。窓子のイメージのきっかけとなったのは、実際に洋裁学校を営んでいた玉岡さんの母親だとご本人が語ってくれた。

「玖美の人生は、桂先生から実際に伺った話をもとに想像をふくらませて書きました。窓子のモデルはいませんが、戦後の混乱のなかで必死に生きた何百万人という女性を象徴する存在として書きました。今でこそ女性の活躍が取り沙汰されていますが、昔から女性はみんな自分が置かれた状況のなかで小さな幸せや希望を見つけて頑張ってきたんです。私の母もそのひとりでした。母の洋裁学校に通っていた生徒さんたちの8ミリを観ると、みんなキラキラした笑顔をしているんですよ。継ぎ接ぎのスカートを着てくるくる回ったりすごく嬉しそうなんです。それを見て、女性ってやっぱりこれよねって思いました。

この2人は呪縛の多い時代にいろいろなことを我慢して、それでもやりたいことをあきらめずに続けたことで一時代を築きます。今の女性は自由度が高まったぶん選択肢も多すぎて、何を選べばいいのかわからなくない人も多いように思います。自分探しを続けている人もいますけど、自分はそこにいるじゃない?と言いたくなる。そう考えると戦後を生きた女性たちは強かったなと思いますね。不自由だからこそ自由のありがたみがわかるのかもしれません」

物質的な豊かさが、精神的な豊かさと比例するとは限らない。自由な時間が幸せを約束するとは限らない。自分にとって何が幸せなのかを決めるのは自分。玖美と窓子の物語はそのことに改めて気づかせてくれるだろう。

取材・文=樺山美夏