『神風怪盗ジャンヌ』でお馴染み! 種村有菜先生原作の異世界転生ファンタジーが遂に単行本化!!

マンガ

公開日:2016/7/5


『瞬間ライル』(種村有菜:原作、喜久田ゆい:作画/一迅社)

 少年の名前は神庭夜一(かんばよいち)。高校生の彼には、幾度も見る不思議な夢があった。リンファルド・イルガリアという魔法が存在する国で、「ご主人様」である王子、リンカーネルが、水の神にさらわれそうになった時、助けに入った自分が殺されてしまう夢だ。

 王子のリンカーネルは水の神に連れさらわれながら、自分の名前を叫ぶ。「ライル」と。――夢では、自分は、リンカーネルの飼い犬なのだ。

瞬間ライル』(種村有菜:原作、喜久田ゆい:作画/一迅社)は、『神風怪盗ジャンヌ』や『紳士同盟』でおなじみ、種村有菜原作の異世界と現実世界が交錯する、ファンタジーコミックだ。

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「異世界から転生してきた青年」が現実とファンタジー世界を行ったり来たりする物語はよく見かける。王道の設定ではないかと思うが、転生する前が「犬」だったということが、本作の斬新で面白味のあるところ。

 タイトルにある「ライル」が犬の名前で、さらにその生まれ変わりである青年が、犬の時には救えなかった愛すべきご主人様を、生まれ変わってから助け出そうとするという、奇抜なのに王道設定のストーリー展開に、「さすが数々の名作を生み出した種村先生!!」と本書を読みながら興奮さめやらず。瞬く間に読み終わってしまった。

 そして、種村先生の作品と言えば、多くの魅力的なキャラクターが出てくることでもおなじみだ。本作でも、主人公の夜一を取り囲む、個性豊かなキャラクターが登場する。

 まずは犬の時に、夜一を可愛がっていたご主人様、リンカーネル。彼は歴代王子の中でも最高の魔力を身体に秘めている、美しく聡明な少年。その美しさは水の神を一目惚れさせてしまうほどだ(見た目だけでなく、その強大な魔力も込みだろうけども)。

 他には、リンカーネルの親衛隊長のゲート。ライルの兄弟で、今は人間の姿をしている双子のミラとシャイ。現実世界の異母兄弟の薫など、あらゆる個性を持った美男子たちが登場する。

 ゲートは飄々とした男性だが、「魔法が使えない」というハンディキャップを背負っているようだし、双子の長男・ミラは再会した弟のライル(夜一)を猫可愛がり、次男のシャイは、名前とは打って変わり、全く恥ずかしがり屋じゃない(ちょっと空気の読めない)の青年だ。また、超無口の薫も、今後どのように物語に関わってくるのか、気になるところ。

 一番の謎は、現実世界で、中学一年生の遠足の時、事故に遭って以来、意識不明になっている夜一の同級生の天王寺若葉(てんのうじわかば)という女の子の存在だ。病院で寝たきりの彼女は、異世界では歌姫として過ごしている。夜一とは顔見知りのはずだが、なぜか彼のことを知らないフリをしており、それだけでなく、自分のせいで無実の罪を着せられ、処刑されそうになった夜一を助けることもなかった。

 彼女がなぜ現実世界で意識不明のままなのか、異世界で歌姫をしているのか、どんな思惑があるのか……謎は深まるばかり。これから明かされていくことになるのだろう。

 喜久田先生が描く精緻で豪華な作画にも要注目しつつ、果たしてリンカーネルを救い出すことができるのか。今後の展開をワクワクしながら待ちたいと思う。

 ファンタジックなストーリー展開に、それぞれの想いを抱えたキャラクターたちが活躍する異世界×転生×ファンタジー、剣と魔法とワンコ系異世界転生譚。第2巻は秋に発売予定だそうだ。少女漫画家として「女性主人公」のイメージが強い種村先生の、珍しい「男の子主人公」を見逃すな!!

文=雨野裾