「美人じゃない、若くない、センスが悪い、失敗続き」が「脳にいい」? 脳科学からみる「正しい恋愛脳の作り方」

恋愛・結婚

公開日:2016/7/7


『脳科学的に正しい恋愛脳の作り方』(黒川伊保子/KADOKAWA)

 ほしいものがいっぱいある。誰もが振り向くような美人になりたいし、なるべく若く見られたい。叶えたい夢もあれば、やりたいこともたくさんある。社会的に認められたい。仕事で成功したい……様々な欲求が、人間にはある。

 けれど、「願望」の半分も叶わないのが、現実だ。「なんか人生損してる……?」。そう思っていた時に、たまたま本書を見つけた。

脳科学的に正しい恋愛脳の作り方』(黒川伊保子/KADOKAWA)のもくじを見てびっくり。「美男美女なんて、かわいそう」「若いなんて、かわいそう」「欠点がないなんて、かわいそう」などなど、本来なら求めて止まないものが「持っている人がかわいそう」と書かれていたのだ。

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 本書は「美人じゃない、若くない、センスが悪い、失敗続き」が、実は「脳にいい」というスタンスから、脳科学的見解に著者の経験談を交え、「持ってない人」を応援する心のサプリメント的一冊だ。

 まず、美人になりたい人は、「そっちの方が恋愛において有利」と考えているからではないだろうか(もちろん、人によってそれ以外の理由もあるだろう)。

 確かに、美人はモテる。合コンに行っても、男性の視線は平々凡々の自分よりも、可愛い子に集まる。しかし、「だから美人になりたい!」というのは誤り。なぜなら、人が恋する理由は美しさではなく、「二人の生殖相性がいいから」だから。

 人間の脳は異性を見た時、無意識に見た目や声、触感、匂いなどから、その生体情報を読み解いている。そうして目の前にいる異性の「免疫タイプ」を知り、生殖相手としてふさわしいかどうか測っているのだ。生殖相性がいいとみなされるのは、「自分にない強さを持った相手」なので、見た目が美人というだけで恋に落ちる(脳科学的には発情という)わけではない。

 さらに、「もう一度若い頃に戻りたい……」と嘆く人にも脳科学的朗報が。著者は今年57歳。だが、若い頃に戻りたいとは思わないのだそう。その理由は様々にあるが、一つは「脳の完成期が56歳だから」だ。

 かつて著者が脳生理学を学んでいた時、その先生に「脳のピークは28歳。それ以降は老化が始まる」と言われショックを受けたそうだ。しかし、それは「新しい知識をどんどん吸収できる」という意味でのピーク。インプットするには28歳までが最適なのだ。

 だが、入力機能に偏るこの時期、「出力性能は意外にプア」と著者は述べる。「脳は、まだ、自分が何者かなんて知っちゃいない。その人にしか言えない深い一言だとか、誰も考え付かないアイデアとかは意外に出せない」とのこと。

 28歳を過ぎ、次の28年の間、脳は神経回路の優先順位を明らかにしていく。人は日々失敗を繰り返す。失敗をすれば、その晩寝ているうちに失敗に使われた関連回路の閾値(生体反応を起こすために必要な刺激量)が上がり、その回路には電気信号が行きにくくなるそう。成功体験なら、その逆のことが起こる。つまり、人の脳は年月を経ることに、失敗しにくく、成功しやすい脳に変わっていくのだ。

 失敗ばかりの30代を越え、成功事例が増えてくる40代になり、ついに出力性能最大期の50代へ。「連想記憶力」といわれる能力が50代半ばに最大となる。これは「本質を見抜く力」。失敗を重ねてきた脳の(無駄なところに電気信号がいかなくなった)回路には、「正解しか見えなく」なる。28歳頃から脳が個性を培いはじめ、その完成期が56歳ということだ。

 脳科学的にみると、「美人」も「若さ」も、万能なわけではない。そのことを踏まえた上で、「だから、失敗しても悔やまない」「美人じゃなくても嘆かない」という気持ちが大切なのだ。

幸せは、恋人やお金や賞賛がくれるものじゃない。
「人生、へっちゃら」な気持ちの傍にある。

 本書は科学的なことも交えながら、著者の生き様が綴られているエッセイとしても読める。「手放せないこと」が多く悩んでいる方の心に、きっと響くだろう。

文=雨野裾