『アルテ』第5巻は、新天地ヴェネツィアで、新たな生活が始まる!【「次にくるマンガ大賞」ランクイン作品】

マンガ

公開日:2016/7/6

 2013年、『月刊コミックゼノン』で連載開始。描写の丁寧さや絵の美しさ、キャラクターの魅力、ストーリー展開の巧みさなどが高く評価され、今年2月には「第2回 次にくるマンガ大賞」の19位にランクインした、大久保圭の長編漫画『アルテ(ゼノンコミックス)』(徳間書店)。そのコミックス第5巻が、6月20日に発売された。

 文化活動が花開いた、16世紀初頭(ルネサンス期)のイタリア・フィレンツェ。貴族の娘に生まれながらも、絵に魅入られたヒロイン・アルテは、画家(美術職人)を目指して家を飛び出し、無口な画家・レオに弟子入りする。徒弟制度が厳しく、女性に対する差別も根強い社会の中で、アルテは持ち前の明るさと負けん気の強さを発揮し、目の前の壁を乗り越えていく。

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 これが、『アルテ』の基本的なあらすじである。

 今までは、フィレンツェの人々とのさまざまなエピソードを織り交ぜつつ、画家修業に励むアルテの姿が描かれており、一読者として、私は「今後もフィレンツェを舞台に、話が進んでいくのだろう」と思っていた。

 ところが第4巻終盤から、物語は新たな展開をみせる。

 レオの知人のトラブルを解決するため、どこか得体の知れない貴族、ユーリ・ファリエルを頼ったアルテに、ユーリは「ヴェネツィアに住む、姪の家庭教師になってくれれば、力を貸す」と条件を出す。そしてアルテは悩んだ末、半年間という期限つきで、レオのもとから旅立つのである。

 第5巻では、そんなアルテの、水の都・ヴェネツィアでの新生活が描かれる。

 フィレンツェとは全く異なるヴェネツィアの町や文化に魅せられながらも、慣れない環境に戸惑うアルテ。「礼儀作法の家庭教師」としてやってきた彼女を、ユーリの姪・カタリーナは頑なに拒む。そんなある日、アルテは、カタリーナの秘密を知ってしまう――。

 このように、第4巻までとは、また違ったストーリーが繰り広げられていくのだが、先が気になって一気に読んでしまうのは相変わらず。

 また、舞台が変わるとともに、登場するキャラクターも一新。わがままな令嬢・カタリーナを中心に、その美しい母・ソフィア、ただの姪思いの善人なのか、それともやはり腹に一物持った人間なのかわからないユーリ、「一風変わった家庭教師」のアルテに興味を抱く、カタリーナの家の使用人・ダフネ……。個性的な面々が、ヴェネツィア編を彩る。

 一方で、各話の最後に挟み込まれる「パラレルストーリー」には、フィレンツェの人々も登場。アルテが旅立った後の彼らの暮らしぶりを垣間見ることができるのは、読者にとっては嬉しいサービス(?)だ。

 第5巻で、カタリーナの生い立ちや秘密の一端は明かされるものの、まだ謎はたくさん残されている。カタリーナはなぜ、家族に対し、心を閉ざしているのか。ユーリの真意はどこにあるのか。そして、カタリーナとの出会いやヴェネツィアでの生活が、今後、アルテの画家としての人生にどのような影響を与えていくのか……。

 これからの展開が、ますます楽しみである。

文=村本篤信