宅配されてきたのは、四肢を切断された恋人だった……!? 物議をかもした問題作『多重人格探偵サイコ』ついに完結!

マンガ

更新日:2016/8/16


『多重人格探偵サイコ』(大塚英志:原作、田島昭宇:作画/KADOKAWA)

 1997年に連載が始まり、当初からその内容で物議をかもしてきたマンガ『多重人格探偵サイコ』(大塚英志:原作、田島昭宇:作画/KADOKAWA)。猟奇殺人をテーマにしており、第一話の“とあるシーン”は、本作の連載開始を遅らせるほど問題視されたことでも有名だろう。先日、そんな問題作がついに幕を下ろした。そして、6月30日(木)、待望の最終巻が発売された。

 しかし、本作はその刊行ペースの遅さ故に、途中で脱落してしまった読者も多いことだろう。そこで今回は、満を持して発売された最終巻を前に、本作のおおまかなストーリーをおさらいしてみようと思う。

 前述の通り、本作は衝撃的なエピソードで開幕する。それは、主人公である刑事・小林洋介の元に、“四肢を切断された恋人・千鶴子”が宅配されてくるというもの。クール便で運ばれてきた発泡スチロールの中には、変わり果てた姿の恋人。これには、小林のみならず、読者も衝撃を受けただろう。連載を問題視されたというのも頷ける。そして、この事件を機に小林の人格は消滅し、代わりに雨宮一彦と西園伸二というふたつの人格が生まれる。理論的な雨宮と、暴力的な西園。このふたりの人格は、犯罪研究所を開設していた伊園磨知とともに、数多の猟奇殺人事件を解決していくこととなる。

advertisement

 カニバリズム殺人や、脳みそに花を植え付ける事件、女子高生による集団自殺。およそ理解不可能な事件の真相を、彼らは犯罪に関する知識をもって究明していく。

 そんな物語の風向きが変わるのが、第5巻。“ルーシー7”と名乗る小学生たちによる、猟奇事件が多発していた時だ。そこで雨宮が出会ったのが、西園弖虎(――・てとら)。本作後半の主人公となる少年である。彼は、事件の裏で暗躍する「学窓(ガクソ)」が生み出した、殺戮マシーンだ。そして、彼もまた、西園伸二の人格を持っている。

 どうして西園伸二はふたりも存在するのか。それは、彼が20年前に起こった事件の被害者たちをもとに組み立てられたプログラム人格だから。そして雨宮一彦は、その人格を保つために存在する、これまたプログラム人格なのだ。そうして生まれた西園伸二は、XXとXYとにわけて保管され、それらを統一することで完全体となる。雨宮一彦と弖虎が出会ったのも、すべて仕組まれていたことなのだ。やがて、物語は急展開を迎える。それは、主人公である雨宮一彦の死。第8巻で彼は死に、伊園磨知によって解剖されてしまう。

 ここから物語は、刑事時代の上司だった笹山徹にバトンタッチ。彼は雨宮一彦に代わり、一連の猟奇事件の謎を追い始める。そうして浮かび上がってくるのが、“スペア”の存在。にわかには信じ難いが、人類にはスペアが存在し、管理されているのだ。彼らに共通するのは、眼球にバーコードが印字されているということ。果たして、彼らの存在理由、そして学窓の狙いはなんなのか。

 また、雨宮一彦が死亡してから、西園弖虎にも焦点が当てられる。学窓のモルモットであった彼も自我を持ち、彼らの言いなりになることを避け、自らのアイデンティティをかけた闘いへと身を投じていく。

 そんな両名の裏で、伊園磨知にもまた変化が訪れる。それが第10巻のラスト。彼女の正体は伊園若女(――・わかな)。学窓側の人間だったのだ。そして事件の謎を追う笹山徹に対し、「自分はもう磨知ではない」と距離を置き、彼女も自らの目的のために行動するようになる。

 各々の思いが複雑に交錯する中、第13巻では、笹山徹と西園弖虎がとある目的のために協力しようとする姿が描かれる。その目的とは、西園弖虎の中に微かに存在する雨宮一彦の人格を消滅させないこと。そのために、学窓と対峙することがここであらためて表明されるのだ。その目的を達成させるために必要なのは、雨宮一彦のスペアを見つけ出し、西園弖虎の中に眠る人格を転移させること。そして見つけ出した、彼のスペア。

 第16巻から描かれるのは、そのスペアである久保田拓也への接近。しかし、それを阻止する学窓によって、久保田拓也はあっけなく殺されてしまう。それによって断たれてしまった、雨宮一彦の再生。

 そして、物語はついにクライマックスへ。学窓のラボへと潜入した西園弖虎は、伊園若女を殺害するために、彼女の深層心理へとダイブする。そこで繰り広げられるのは、人格対人格の、静かなる闘い。果たして、その行方は。そして、雨宮一彦の復活は成し遂げられるのか――。

 猟奇事件から始まり、人類のスペア、人格転移、プログラム人格と、人間のアイデンティティそのものを問う展開が描かれてきた本作。完結を機に、その幕引きを見届けてみてはいかがだろうか?

文=五十嵐 大