「少ハリ」「ぜんハリ」プロデューサー・橋口いくよインタビュー!才色兼備の小説家が、男性アイドルグループをプロデュースすることになったわけ【後編】

芸能

2016/7/10

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「行けるところまで、行きたい」と意見が一致

――ぜんハリの7枚目の最新シングル『ビーバイブレーション』はオリコンウィークリー4位を獲得。上り調子の中、キングレコードを卒業することが発表されました。

橋口 はい。ぜんハリがCDリリースをさせていただいていたキングさんのレーベル、スターチャイルドレコードが、2月にキングアミューズメントクリエイティブ本部に移行されたタイミングで卒業が決まった時、こんなに大切していただいた環境がなくなることに対して、何を思うか、メンバーに意思確認をしました。そうしたら全員「行けるところまで行きたい」と意見が一致したんです。自分たちが続けたい気持ちは大前提でありながら、キングさんが育てて下さったものは、生かし続けなきゃいけないって。これまで何があっても応援してきてくれたファンの皆さんに会い続けたいし、関わられた皆さんの気持ちが入ったぜんハリであることに感謝があるからこそ続けたいと彼らは言いました。それを受けて、キングレコードさんも、最後まで応援したいし、残りの時間を未来につなげて欲しいと、7月まで東京と大阪でライブを組んでくださって。キングレコードの皆様には、よくぞここまでぜんハリを支えてくださったと、本当に感謝しています。

――まさに今がターニングポイントですね。

橋口 そこで生まれた彼らの思いをどう形にするかも、私の仕事になってきました。アイドルなんて、と最初は思っていたメンバー達も含めて「行けるところまで行きたい」「ぜんハリでいたい」と口にしてくれたぜんハリのメンバーみんなの思い、楽曲、キングレコードさんが3年間育てて下さった大切な宝を、なんとかして未来につなげられないか、私もその日からずっと考えてきました。そこで、まずは彼らの居場所作りも含め、何が起きても『少年ハリウッドプロジェクト』に関わるコンテンツの活動をサポートできるホームになる場所が必要だと気づき、ハリウッドファクトリーという会社を作ることになりました。

――ここで、ついに社長に。

橋口 ハリウッドブランドから生まれたたくさんの歌は、ぜひ歌い継いがれていって欲しいし、いろいろな方のお力をお借りしながら、これからも、彼らの意向や夢をかなえるためにサポートします。そこを軸に、卒業が決まったその日から動いてきた中で、ありがたいことにTBSラジオさんがライブの主催を定期的にして下さることになったり、ぜんハリをライブに呼びたいとお声をかけて下さるところがあったり、彼らが新しいことに挑戦できる環境も少しずつできつつあります。それは、現場も含め、ぜんハリにこれまで関わってこられたスタッフの方やファンの方々のお力があってこそで、あの日のみんなの頑張りは今日に繋がっているなと、すべての日々に後悔なく感謝できるのは、ひとつの誇りです。私自身も、ぜんハリや、少年ハリウッドに、ずっと向きあう覚悟ではいますが、私が死んでも続けばいいんです。彼らが言うように、みんなには行けるところまで行って欲しい。私は最後を見届けられなくてもぜんぜんいいと思っています(笑)。それくらい遠くまで行ってほしいですね。

「ぜんハリは自分たちの作品である」と、全員が考えるように

――公演に何度か伺わせていただいて、彼らは自らの運命すらステージにかえていくような「物語」をとても大切にするアイドルユニットだなと感じます。

橋口 彼らにそういう資質があったこともあり、それは必然的にそうなっていきました。彼らにおける物語やストーリーって、フィクションって意味ではないんです。生きているもの、血が通うものにもちゃんと美しい物語は宿れる。そして、その人間それぞれのリアルの物語は、それぞれの人生においてものすごく尊いものです。誰かがメタな視点でもてあそんだり、ひきずりまわしたり、ねじまげたりすると濁ってしまう。私は、小説や脚本を書く時も、私個人の趣味とか好みでは書けないタイプなんです。キャラクターに対して「私が君だったら、こうしたほうが人生面白くなるんだけど……」って本当は思っても、それをしようとすると、ものすごい違和感でオエッとすらなるんですね。キャラクターが動きたいという方向にしか書けないので、私はひたすら道路工事をし続けながら道を作る作業をしているという意識です。それは、ぜんハリにおいてもそうだと思います。彼らありきですべてが動く。

――彼らのステージを見て、橋口さんのお話を伺っていると『永遠never ever』の歌詞を思い出しました。

橋口 本当にそうなんですよね。ぜんハリや少ハリが歌っている『永遠never ever』には「君にはたくさんの まだ見ぬストーリー 完全装備の未来はいらない」という歌詞があるんですが、そこにはそういう色んなものが集約されているのだと思います。

――生きたぜんハリの、完全装備ではない物語が待っていてこその、ぜんハリのステージということですね。

橋口 不可抗力をエネルギーにかえて、ステージにしていくのも、彼らの良さだと思っています。ファンの皆様の気持ちや動きも、どんどん反映されていきますから、彼らありきでありながら、一方でこれはもう彼らだけのものでもないんです。ファンの皆様の人生と、ぜんハリの人生が同時進行しながら未来が変わってゆく。ある日、ある1人のファンの方が、会場にいらっしゃるかいらっしゃらないかで、公演の空気、ストーリー、その先のぜんハリも含めて絶対別のものになってゆく。そのありがたさ尊さを彼らは肌で感じているからこそ、今ではメンバーの口から「ぜんハリは自分たちにとって作品」とか「ぜんハリは関わった人たちみんなの作品」というような言葉も出てくるようになったし、ファンの皆様と過ごす日々を重ねるごとに、意識がかわってきているのを感じます。ぜんハリに触れたすべての皆さんの作品であるからこそ、これからもたくさんの方に見て頂いて、ぜんハリをみんなで作り上げる楽しみを色んな方に感じていただけるといいです。

――たくさんの方々が関わっているからこそ、ぜんハリ自体に変化が起こっていく。「まだ見ぬストーリー」は、たくさんの方の手にかかっていると。

橋口 そうですね。変化しながらたくさんの方々が「ぜんハリは自分の自信作だ」と胸を張れるユニットなっていければなと思います。変化し続けるということは、生き続けるということだと思うんです。そして、一緒に進む人が多ければ多いほど、ぜんハリは強くなる。例えば、あるメンバーや、あるファンの方、スタッフの誰かでもいいんですけど、ぜんハリに関わる誰かの人生がもしも壁にぶつかって、たとえ一瞬止まってしまっても、他の人々は元気に動いていますから、ぜんハリは止まらず進み続ける。もちろん壁にぶつかった誰かの手も引いて。そうやって、ぜんハリという存在がみんなを引っ張りながら、壁を越える勇気を見せ続けられるような強いユニットになっていって欲しいです。

――橋口さんも壁にぶつかることはありますか?

橋口 ありますあります。私自身も壁にぶつかることはありますが、本気で考えて、死ぬ気で考えて、あがいてあがいていろんなことをやってみてお手上げになった時には、メンバーからも意見を聞くし、そこは、かっこつけません。自分は未完成、完璧ではないのをわかっています。目的は自分を良く見せることより、前に進むことですから。高い壁を越える時はたいがいブサイクですし。かっこよさなどいらない(笑)

――無駄なプライドを持たない。むしろかっこいいです。

橋口 美しく登ることができないだけなんです。世の中にはそこに挑戦する人だっています。ぜんハリの皇子こと皇坂は「高い壁も綺麗な笑顔で登りきってみせたい」とはっきり言いますからね。やっぱりアイドルはすごいなあと。

――でも、我々から見れば、橋口さんも笑顔で登っているように見えるんですよね。あまり弱さをお見せにならないタイプというか。

橋口 いやいや、もうそれはぜんぜん別の話ですね。私の場合は、自分なりに最低限、きつい姿を見せたくないタイプの人間なだけです。

――思わず、ぐったりしちゃうこととかないですか?

橋口 それがないように必死なんだと思います(笑)。この前、色んなものを整理していて、去年の自分の動きを振り返る機会があって驚いたんですが、すごい回数、点滴と酸素カプセルに行ってるんですよ。現場の前とかに行ってたんだと思うんですけど、その日その日を全力で動いてるから、そんなこと忘れてたんですね。メンバーもスタッフも、人間なので限界がくるとそれが顔に出ることもある。でも「それはお客さんには関係ないこと」っていつも言っていることを、自分で体現しなきゃ、説得力がない。ちょっとしたことでもそうですよ。私けっこう、机の上とかバーッと散らかすタイプなんですけど「みんなの楽屋だから、きれいに使いましょう」と言っているから、楽屋じゃ絶対しちゃいけないとか。

――彼らの見本にならなきゃいけない(笑)

橋口 そう。やっちゃった時は、「あ、散らかした。すまん」と言って片付けるんですけど(笑) そういうふうに、日常生活の中でも、彼らに対して恥ずかしいことをしてないか、ということをすごく考えるようになりました。自己管理の意味で、ぜんハリに言っている以上の事はやらなきゃな、と思っているので。

その正体はサムライ?

――担当編集さんから、「橋口さんは男気がすごい」と常々聞いていましたけれども、本当ですね。

橋口 言葉や、伝えることに嘘があるって自分自身が知っていると、それは伝わってしまうと思っているんです。ズルしたりごまかしたり、やってないのにやっているふりをしたりすることは、別に人は見てないからわからないかもしれないけれど、自分はズルしたことを知ってるじゃないですか。そういう人間が言う言葉は伝わらないと信じているんです。なんか、徹底しちゃうんですよね(笑)。鬱陶しい人間だと思いますよ。

――すごいのは、彼らと一緒にいる時だけではなく、生活のすべてでそれを実践されているところです。

橋口 もちろん、時間があればダラダラ寝ていたりする日もあります(笑)。まあ、人はそういう日もあるよね、と。けれど、「ここぞという日のために備えて、どう自分を作るか」という事はちゃんとやる。だから多分、先回りして点滴やら酸素カプセルやらに行ったりしているんだと思います。疲れた顔でテレビに出てはいけないとか、疲れた態度でスタッフに接してはいけないとか。トレーニングもその一環ですよね。

――これだけ色んなことをやっていると、トータルでは全力でも、どこかペース配分などを考えたりして余力を残したりっていうことを考える人も多いと思いますが、一瞬一瞬が全力なんですね。

橋口 体力計算が下手なんですよ(笑) 全部に対して自分に余力を残さずにやるしかないんです。寝ずに行って、走り回りながら公演が終わって、玄関に着いて、靴脱げるかな? というくらいぐったりの日も、猫の顔を見てニヤっとして、なんとかお風呂に入って、また原稿書いて。

――「これいつまで続くんだろう?」とか「もう嫌」とか思うことはないですか?

橋口 力を出し切ると、人ってそんなことを思う力も無いんですよ(笑) それに、目的がはっきりしていれば走っていけます。ファンの皆様が笑顔になること、ぜんハリが大きくなっていくこと。そのキラキラした旗があれば十分かと。私自身、アイドルがいたから生きてこられた時代があったので、アイドルを好きな方々が、それぞれどんな環境にあっても、一瞬でも幸せを感じてくださればいいなって祈るようにいつも思ってます。

――橋口さんはいつもそうやって本気で生きていらっしゃるので、周りを動かすのですね。男気どころか、本当にサムライみたいですね。

橋口 出身が鹿児島なんですが、どうも九州男児の気質を引き継いでしまっている気がします(笑)

――見た目とすごくギャップがありますよね。でも『少年ハリウッド』という作品に関してもそうですが、アイドルについて徹底して考えておられる姿には、確かに男気を感じます。

橋口 なんかもう女々しい感情がどんどんなくなっていくんです。私は、昔アイドルになりたくて、自分はなれなかったわけなんですけど、だからっていつまでもアイドルに執着しているというわけでもないんですよね。それとこれとは話は別。「なれなかったから」というそれは、ずいぶん前にもうなくなってしまっていて、情熱と愛情は持ちながらも非常にドライに、ぜんハリと少ハリに関わっていられます。というか、そうじゃなきゃ続かないんですよね。

――仕事で自己実現をしようとする人はたくさんいると思いますが、橋口さんの場合、彼らを通しての自己実現はないと。

橋口 人や人の人生を通しての自己実現なんて、そんなの気持ち悪くないですか(笑)。己の人生は己で完結しないと。

――やっぱりサムライです。では、いつ自己実現されているのでしょう。

橋口 ご飯食べてる時とか、海に入った時とか、寝るとか? ほんとに個人的なことですよね。わあ、夜ねれるー、とか、今日も朝がきたー、とか、空見ながら外で飲む冷たいお酒がおいしー、みたいなことが自己実現ですかね。マズローの欲求五段階的な心理は私にもあるんでしょうけれど、ぜんハリや少ハリの現場では、それがポーンとなくなるというか。私にとってアイドルはやっぱり別格なんですよね。

――橋口さんにとって、その「別格」であるアイドルとは今どういう存在なのでしょう。

橋口 私の中で、アイドルは「存在」というより「概念」になってきつつあります。概念だから、俗っぽい感情に左右されないのかもしれません。ある意味においては、すごく生々しい俗っぽい感情から生まれるはずのアイドルを突き詰めると、そうなってきた感動はありますが、これはまだまだわかりません。私の出合ったアイドル哲学に終わりはなく、今でも途中ですから。

――橋口さんが関わられる作品の中で、その続きを拝見することを、これからも楽しみにしています。あの、ところで、最後に非常におうかがいしづらい質問です。ぜんハリの総合プロデューサーに表記がある桜エイジさんですが、橋口さんの別名なのではないかと噂があります。今更聞くのもなんなのですが、今日は桜さんは?

橋口 そこはお察しいただければ。彼は、最初からずっと私と走ってきてくれた大事な大事な相棒です。お互い、想像以上に仕事量は増えましたけどね(笑)。ああそうか、私には24時間、桜エイジがいたから走ってこられた部分もあるのかもしれません。ありがとうエーちゃん。

『少年ハリウッド』の原案となった女性版アイドルの小説『原宿ガール』が上梓されたのが2008年。そのとき、誰がこの未来を予想できただろう。「昔から自分の営業が下手なので、目の前に来たものをひたすらやってきただけなんです」という橋口氏は、小説家から、アイドルのプロデューサーまで、ただ、求められること、目に前にある課題について常に考え続け(歩きながらも常に思考しているため、駅などで階段を踏み外すことも多いという)、日々邁進して、今に至る。

個性豊かなメンバーのパワーと楽曲の魅力が相まって、日々進化を続ける「ぜんハリ」は、肝の据わった侍プロデューサー・橋口氏とともに成長を続けるだろう。その未来に期待が膨らむ一方、小説家として、プロデューサーとして、はたまた、まったく新しい仕事で、余力を知らない橋口氏の「全力」を我々はこの先も見ることになるかもしれない。不器用で努力家の天才「橋口いくよ」の仕事から、これからも目を離さずにいれば、面白いものに出会えそうだ。

取材・文=波多野公美

【プロフィール】
橋口いくよ(はしぐち・いくよ)●1974年鹿児島生まれ。アイドルになりたい夢を叶えるため、16歳から50以上のオーディションを受けるも、合格に至らず、挫折。その後、30以上のアルバイトを長きにわたり掛け持ちしながら文章を書きため、出版社に持ち込む。2001年に『愛の種。(幻冬舎)』で作家デビュー。自身が32歳の時、17歳と間違われてアイドルグループのスカウトに合い、「遅すぎる」と絶望した経験をもとに、長編小説『原宿ガール(KADOKAWAメディアファクトリー)』を執筆。その後、アイドル志望の女性を男性に設定変更し、2011年、舞台脚本『少年ハリウッド』、小説『少年ハリウッド(小学館刊)』を執筆。以降、アニメ×小説×ぜんハリを掲げるプロジェクトの総合プロデューサーとして、男性アイドルグループ『ZEN THE HOLLYWOOD』の育成、ライブ演出、アニメ(シリーズ2期)の原作、シリーズ構成、脚本、キャラクター設定、すべての楽曲(約40曲)の作詞を務める。2012年より『とくダネ!(フジテレビ)』月曜コメンテーター。大人可愛いを通り越した、“驚異の少女系40代”のビジュアルと、辛口な評論のギャップで人気に。
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