世界が認めた企業のトップが共通して持っているのは「心のアツさ」? ビジネスで成功する「思考力」とは

ビジネス

公開日:2016/7/14


『外資系トップの思考力――経営プロフェッショナルはいかに最強の解を生み出すのか』(ISSコンサルティング:編/ダイヤモンド社)

 大企業のトップといえば凡人とは一線を画す才能・発想の持ち主だというのが、一般人の共通認識ではないだろうか。しかし、世界に名を馳せる大企業で活躍する日本人のインタビューを読んでみると、意外にも叩き上げの努力家タイプが多い。

 本書『外資系トップの思考力――経営プロフェッショナルはいかに最強の解を生み出すのか』(ISSコンサルティング:編/ダイヤモンド社)は、外資系企業のトップとして活躍する日本人に、ビジネスで成功するための考え方や信条などについて語ってもらった内容をまとめたものだ。登場する企業のトップは皆、若い頃の経験をもとに成功した人たちだが、彼らの人生は必ずしも順風満帆ではなかった。むしろ過去の辛い局面で、どうすればその状況を打開できるのかを考え抜き、実践した苦労人といえる。彼らは例外なく、平社員からのし上がった生え抜きの努力家だ。だからこそ、彼らの言葉には真実味と説得力がある。

 たとえば、リシュモンジャパンの西村豊氏の「データは所詮、過去を示している。重要なのは、データから変化を洗い出すこと」や、日本GEの熊谷昭彦氏の「命令や腕ずくで、人の体は動くかもしれないけれど、心まで動かすことはできない」など、語られる名言は枚挙にいとまがない。

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 容易に真似できないことは百も承知。しかしながら、本書に登場するトップの言葉を聞いていると、不思議と特別なことは言っていないように感じられる。目から鱗の奇抜なアイデアが次々飛び出すわけでもない。

 とはいえ、ネスレ日本の高岡浩三氏のように、当時利益率2~3%だった子会社を5年で利益率10%に引き上げろと命じられ、それを実現できる人物がどれだけいるだろうか? 左遷に等しい出向にめげず、与えられたミッションを達成してしまえる人物は?

 そのミッションを達成してしまう人物が「極限まで追い込まれたとき、人は考えるようになる。ならば、自分で環境を作っていくこと」と語る。こうした信念に裏打ちされた言葉の数々に触発されるのは、きっと私だけではないだろう。個人的に意外だったのは、本書に登場する人物が「学生時代の成績はイマイチ」と語っていることだ。まるで学歴社会などという言葉は、もはや通用しないとでも言うかのように。

「考え抜いたら、最後は心の強さとガッツが求められる。問われるのは覚悟ですよ」とは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの日色保氏の言葉だ。この例に限らず、思いのほか精神論が多いことにも驚かされる。要するに、ロジックは真似できても精神までは真似できないということなのだろう。

 ここで登場するような成功者は、ほんのひと握りしかいない。が、「自分もいつかは……」と奮起するのは人の勝手だ。なにしろ、登場するのは叩き上げの努力家たちなのだから。彼らの輝かしくも苦悩にまみれたサクセスストーリーに、私たち凡人は勇気づけられる。代わり映えしない日々に「まさか」の要素を盛り込んでくれる。

「自分がどうしたいのか、と未来を考えることこそ、まさに思考力でしょう。その意思こそが、会社の未来を変えていくんです」――メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎氏の言葉は、ビジネスの世界を越えた、いわば人生哲学だ。成功者の胸の内には何よりもまずそうした信念があるのだと思う。

 少年漫画の主人公のように暑苦しい人が、陰で嘲笑される風習がある昨今。「精神論だけで成功できれば苦労しない」などと斜に構えていたら結局何も生まれない――そういう「心のアツさ」が、世の中にもっとあってもよいのではないだろうか。

文=上原純(Office Ti+)