「持ち物はやっぱりかっこいい方がいい!」無意識の中にあるそんな気持ちが消費行動を決めていた!

ビジネス

公開日:2016/7/19

『クール 脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか』(スティーヴン・クウォーツ、アネット・アスプ:著、渡会圭子:訳/日本経済新聞出版社)

 私たちは多くのブランドの中から、何を基準に服や持ち物を選んでいるのだろうか? 身に着けている物や運転している車、毎日口にしている食品など、選ばれた物がその人の価値を判断する基準になっていることも少なくない。だから、無意識に選んでいる物にその人の価値観が表れ、その人らしさを作っているのではないだろうか。そこで、無意識の消費行動が経済に与える影響を脳科学によって検証した本『クール 脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか』(スティーヴン・クウォーツ、アネット・アスプ:著、渡会圭子:訳/日本経済新聞出版社)を取り上げる。

脳は無意識に『クール』を追い求める

 カリフォルニア工科大学では、ビバリー・ヒルズのロデオドライブで、人の消費行動を脳科学から検証するためのフィールドワークを行っていた。ロデオドライブというと、数々の高級ブランドショップが立ち並ぶ聖地のような場所だ。そこに世界各国から人が集まり、ブランド品を買うだけでなく、外から店の中を眺めたり、店の前で写真を撮ったりするだけで喜ぶ観光客がいる様子を、脳科学と経済学の両面から探っていたのだ。すると、無意識の中で「クール」を追い求める気持ちがあり、それが消費行動を左右していることが浮かんできた。

 しかし、「クール」という感覚は微妙で定義が難しい。日本語では「かっこいい」と訳すが、必ずしも特別かっこいいことを要求していない場合もある。「とにかくダサいものだけは避けたい」という気持ちだけで物を選ぶ人もいるため、人によってクールの範疇が異なり、ハードルの高さも違う。とはいえ、人は無意識のうちにクールを追い求め、クールに感じられる方を選んでいることは見えてきた。無意識が決めるものは、人の生存に関わる重要な事柄。そう考えると、クールであるものを選ぶということは、そこまで私たちにとって大事なことだということがうかがえる。

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脳の中には3人の消費者がいる!

 無意識のうちに起こす行動がその人の本質を表すというようなことは、よく心理学などでも言われる。しかし、衝動買いでもない限り、消費行動に関してはもう少し計画的に行われていると思っていた人が多いのではないだろうか。ところが、実際はそうでもないようだ。「これを買う」と決定する最初の段階で無意識の選択が働いているというのだ。

 今回の調査を行ったのはカリフォルニア工科大学の「神経経済学」の教授とそのゼミ生。神経経済学とは、経済学に神経科学やコンピューターサイエンスを合わせた新しい分野の学問で、フィールドワークで消費者からの聞き取りを行うだけでなく、意思決定をする際に脳のどの部分でどのようなことが起こっているのかも探っていた。この分野では、人を「生存快楽機械」「習慣快楽機械」「目標快楽機械」の3つの意思決定機関を併せ持つ存在とみなすのだが、この3つの意思決定機関にはときどき意見の対立が起こる。頭の中には「本能的消費者」と「習慣的消費者」「社会的消費者」の3人がいて、お互いの思惑をぶつけながら消費を決定づけているのだ。

クールを追い求めるのは周りへのアピール?

 脳が無意識のうちにクールを求めるのは、人が社会の中で生活していることに関係しているようだ。周りの人をそれほど意識しないという人でも、無意識の中で周りを気にしている部分がある。例えば、「トイレの後は手を洗うか」というアンケート調査をしつつ、実際に行動観察した調査結果がこの本には載っていたのだが、アンケートでは96%が手を洗うと答えていたにもかかわらず 、実際に手を洗っていたのは85%だった。消費行動についても同じような調査をすると、どれも似た結果になった。つまり、人は周囲が自分のことをどう見るかという部分をとっさに考え、無意識のうちに自分をよく見せる方向に脳が働いてしまうことを意味している。

 新しく発表された商品やブランドがクールかどうかを判断する基準は人によって異なるのだが、その商品やブランドを選ぶ人がクールだという社会的な基準ができると、人はそれを持つことで自分の評価を上げたいという気持ちが無意識のうちに働いてしまうもののようだ。

 この本の中には、10代がクールだと思って始めたTwitterを50代がクールに感じて始めると、10代はダサいと感じて他のSNSを探し始めるという話も載っていた。これは都心で流行ったものが地方に波及したのちに消えていくのと同じメカニズムなのかもしれない。「私は流行に流されない」と言っている人の頭の中にもクールを求める本能がある。きっと、「他の人と違うものを選ぶのがクールだ」と感じているだけなのだろう。

文=大石みずき