貧しくも世界一エレガントな「サプール(SAPEUR)」から学ぶ、生き方の真髄

暮らし

公開日:2016/7/26

『WHAT IS SAPEUR ?―貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち』(NHK「地球イチバン」制作班、影嶋裕一/祥伝社)

 2014年12月4日、NHKで放送されるやいなやリアルタイム・ツイート数が1500件を超え、NHK公式フェイスブックの閲覧数は80万以上という驚異的な数字を出し、その後写真集が出版。今年3月29日からは期間限定で写真展が開催され日本でも話題になった世界が注目するファッショニスタの存在をあなたは知り逃してはいないだろうか?

 その名は、「サプール(SAPEUR)」。

 貧しい生活を送る一般人でありながら世界の名だたるファッションデザイナーにインスピレーションを与え、子供から大人までたくさんの人たちを魅了させた男たちだ。NHKの番組『地球イチバン』で紹介され、インパクトある存在感と刺激的なファッションセンス、類を見ない魅力的な生き様で多くの人たちの心をわし掴みにした「サプール」は、ファッションの真髄、さらには生き方の真髄までも指南してくれる驚くべき集団である。

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「えっ? サプールって何?」と思わず口走ってしまったあなた。番組を見て、写真集を買って、写真展に行って、すっかりサプールの魅力にとりつかれてしまったという方。そんな人たちにぜひ手にとってほしい1冊がある。『WHAT IS SAPEUR ?―貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち』(NHK「地球イチバン」制作班、影嶋裕一/祥伝社)だ。

 サプールとは「サップ(SAPE)」と呼ばれるコンゴ特有のファッションスタイルを楽しむ人々のこと。「サップ」とは“おしゃれで優雅な紳士たち”を表すフランス語から名付けられた造語である。いたるところにゴミが散乱し、蚊やハエが飛び交い、歩いているだけで生ゴミの臭いが鼻につくという“優雅”や“紳士”とは結びつきにくいアフリカ・コンゴの貧しい地域で、ファッションを楽しみ、高貴であると評される男たちがいるというだけでも衝撃的だ。

 たくさんの写真とともにたっぷりとサプールの魅力を著した本書は、番組制作までの裏話を紹介したプロローグ、サプールとは何かという疑問に答えた第一章、サプールたちの日常に迫った第二章、サプールとして生きる5人の男たちに焦点をあてて彼らの生き様に迫った第三章、番組のディレクターとチーフ・プロデューサーが制作や取材を通して感じた思いを綴った後記に分けて綴られている。

 昨今日本では安価なものを上手に着こなすプチプラコーデが人気を呼んでいる。洋服にたくさんのお金をかけずとも上手に着こなすことは可能なのだ。ともなれば貧しくてもセンスさえあれば“オシャレ”な人になることはできるかもしれない。しかし貧困という環境の中で“エレガントな紳士”になることは実際に可能なのだろうか。答えは“YES”だ。では、どうやって? 本書で綴られているその疑問の答えにこそ彼らの魅力がある。

 サプールとはどのような人たちであるのかを簡潔に知ることができる6つのルールを紹介しよう。

1. 上質な服をエレガントに着こなす
2. 色彩感覚を磨き、色のハーモニーを奏でる
3. 武器は持たない。軍靴を履く代わりに平和のステップを刻む
4. 気取って歩き人を魅了する
5. 他人を認め、他人を尊重し、他人に敬意を払う
6. 個性を大事に、誇り高く生きる

 サプールたちの色彩感覚、ファッションセンスは著名なデザイナーが認めるほどずば抜けている。しかし彼らはそれだけでは終わらない。センスが問われる服装以上に人としての在り方や生き方を大切にし、それらの思いを“ファッション”という形を通して明瞭に人々に発信しているのだ。

 パリで自らのブランドを立ち上げ、サプール界のスターとも言われるジョスラン・アルメル・バシュロール 氏はいう。「人は見られるために生まれてきたのさ」「見られるということはいいことだ。それは隠れないということだから」と。

 20歳のときに武装組織の兵士となり真っ二つにちぎられる人の姿や焼かれる妊婦の姿を目のあたりにしたキンベンベ・ユゼフ氏はいう。「武器は悪魔の道です。服は健全な道です。戦争からは何も生まれない。今も生活は何1つよくならない。綺麗な装いをした人は争いや、混沌としたものを避けるようになります。綺麗な服装は心まで綺麗にします。みんなの心が綺麗になれば戦争なんて起きないんです」。

 貧しくても現状に屈せず、人に恥じない誇り高き生き方を守り、平和を愛し続けるサプールたち。本書で語られる彼らの言葉や見せられる姿に、感じさせられること、学ぶべきことは多い。

文=Chika Samon