「本物のエスカルゴ」ってなんだ!? 「エスカルゴ大試食会」潜入記!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14

エスカルゴ兄弟
(津原泰水/KADOKAWA)

突然ですが、本物のエスカルゴ、食べたことありますか?

「某カジュアルイタリアンで食べた」
「けっこう安いのね」
「ビールに合うよ」

なんていう声が聞こえてきそうですが、あの6ピース399円で供されているチェーン店の焼きエスカルゴ、本場のブルゴーニュ産ではないらしいのです。

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では、「本物」はというと、ブルゴーニュ種の「ポマティア」こそが「エスカルゴの王様」と呼ばれる銘柄だそう。どの世界も本物はやはり貴重で、このポマティアも近年は乱獲のため絶滅の危機に瀕し、本国フランスでは採取制限されているほど。世界でも指折りの高級食材となりつつあります。

そのエスカルゴ・ポマティアをメインメニューとしたエスカルゴ料理店「スパイラル」が吉祥寺にオープン、といっても小説『エスカルゴ兄弟』(津原泰水/KADOKAWA)の話です。

主人公の柳楽尚登(なぎら・なおと)は編集者だったが、いきなりクビを宣告され再就職先として吉祥寺の立ち飲み屋を紹介される。そこでうずまきマニアのカメラマン雨野秋彦(あまの・あきひこ)と出会い、立ち飲み屋を改装してオープンするエスカルゴ料理店「スパイラル」の立ち上げに料理人として携わり、三重県は松阪のエスカルゴ・ファームで研修を始めるが、その伊勢の地で恋に落ち……。

という、運命ぐるぐるのあらすじですが、今回、物語のキーとなるブランド・エスカルゴ「ポマティア」を著者の津原泰水さんがご馳走してくれるというので、特別に試食会に潜入してきました。しかも、使用するポマティアは作中にも登場する、世界で初めて養殖に成功した「三重エスカルゴ開発研究所」(三重県松阪市)から取り寄せたものだとか。

お品書きは、下記の4品。
●エスカルゴの酢の物
●エスカルゴ・ブルギニョン
●エスカルゴ軍艦
●ウドネスカルゴ

さて、気になるポマティアのお味をレポートしていきましょう。

エスカルゴの酢の物

まず酢の物ですが、津原さんは「森の香りのする貝」と言い、作中の主人公のセリフには「あくまで貝、それもけっこう美味な貝」とあります。両者の言葉どおり、きっちり下処理がされたポマティアの味はツブ貝のそれに近く、多少、ぬめりを感じるくらいで、酢の物といった和のシンプルな味でも十分、勝負できます。試食会に参加した方々も「これ、普通に貝の酢の物ですね」と口を揃えて感想を聞かせてくれました。

定番のブルギニョン

続いてブルギニョンです。バターやパセリ、エシャロットを使った伝統的ソースは主張が強いのですが、ポマティアが持つ素材としての個性はこのソースに決して負けません。ビールやシャンパンなどとの相性も良く、肴としての完成度は今回、もっとも高かったとの声も挙がりました。

エスカルゴ軍艦

さらには軍艦です。これも酢の物同様、貝のような特性があり、違和感はほとんどありません。回転寿司の新メニューとなったら、老若男女問わずウケが良さそうです。

ウドネスカルゴ(エスカルゴのせ伊勢うどん)

そしてシメの伊勢うどん×エスカルゴの「ウドネスカルゴ」についてですが、今回、あえてコメントしません。香川県出身でさぬきうどん店の息子である主人公が、天敵・伊勢うどんと手を組み、家族と恋と出立と未来をすべてぐるぐる混ぜて完成したひと椀。そのマリアージュはぜひ『エスカルゴ兄弟』を読んで体感してみてください。

また、作品に登場するのはポマティアだけではありません。津原さんいわく「エスカルゴという特殊な食材との対比として書きたかった」という卵焼き、チキンラーメン、モツの煮込み、天津飯、葱ぬたetc……といったいわゆる「普通の美味しいもの」も大いに登場して、このお腹の空く小説を彩ってくれます。

エスカルゴ同様に個性的な絶品エンタメを、食欲の落ちるこの夏、いかがですか?

取材・文=竹田聡一郎 撮影=内海裕之