「つぶせ」と言われた沖縄の新聞。その報道は、本当に「偏向」しているのか【インタビュー前編】

社会

公開日:2016/7/28

 7月10日に行われた参議院選挙で、沖縄選挙区では無所属新人の伊波洋一氏が初当選した。伊波氏は名護市辺野古への米軍飛行場の移設反対を訴えて出馬し、現職の島尻安伊子沖縄・北方担当相(自民党)を破った。

 当選を伝えるテレビ中継で、伊波氏の後ろでカチャーシー(手振り踊り)を踊っていたのは、翁長雄志沖縄県知事だ。翁長知事を支持する野党や市民団体などによる「オール沖縄」は、政府が進めている米軍基地の辺野古移設にずっと「NO」を突き付けてきた。今回の伊波氏の当選は、沖縄県民も移設反対に賛意を示した結果と言えるだろう。

 しかしそんな沖縄に対しては県外から、時には県内からも「米軍が撤退したら中国に乗っ取られる」「沖縄県民はわがまま」「売国奴」などの声がぶつけられてきた。

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 そして2015年6月25日には、自民党の若手議員約40名が集まった「文化芸術懇話会」の席上で、講師に招かれた作家の百田尚樹氏が「沖縄のあの二つの新聞社(沖縄タイムスと琉球新報を指す)はつぶさないといけない」などと発言している。(参考:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=121492

 沖縄の新聞はおかしな記事を書いている。だから県民も影響されておかしな考えを持っているから、つぶさなくてはならない。このようなことが、政権与党の会合で話し合われていたのだ。

 ジャーナリストの安田浩一さんが「つぶさなあかん」と言われた沖縄の新聞記者たちを訪ね歩いた『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(安田浩一/朝日新聞出版)も、第一章の冒頭でこの「百田発言」について触れている。安田さんは「つぶせ」と言われた側がどう受け止めたのかを知りたくて、この発言があった直後から取材を始めた。同書は約30名の記者の言葉や姿勢から、彼らが日々何を考え、どんな目線で取材に挑んでいるかを克明にルポした一冊になっている。そこで今回、著者の安田さんにインタビューをおこなった。

「沖縄に対する一方的な誹謗中傷への答えを、自分の取材と記者の言葉で浮き彫りにしたかったんです。そして百田氏の発言は彼個人というより、永田町の意思だと感じていて。懇話会では『例えば米兵が女の子を犯した。それで米兵は出ていけという。じゃあ、高校生が町の女の子を犯したらその高校を全部撤去するのか』といった、悪意のある言葉が他にもたくさん出てきて、『これは今まで見てきたヘイトスピーチ問題と地続きではないか』と実感したので、最初は出版の予定もなかったし、知り合いもほとんどいなかったけれど、とにかく沖縄に行こうと思いました」

 安田さんは2013年、銀座で開催されたオスプレイ配備反対デモを見学していた。すると沿道からデモ隊に向かって「国賊」「中国の手先」「スパイ」という声があがり、驚いて見てみると、なじみのある顔が並んでいたという。それは2008年頃から取材を続けてきた、排外デモの参加者と同じものだったそうだ。在日コリアンを対象にしたヘイトスピーチと同質の言葉が、「同じ日本人」であるはずの沖縄県民への攻撃にも使われていたのだ。

「参院選の結果を見てもわかる通り、沖縄県民は日本政府の意思に反して、辺野古への基地移設に強く反対しています。それが『国に逆らうもの=売国奴』という認識に繋がるのではないでしょうか。こんな言葉は単なる記号でしかないけれど、そうであるがゆえに簡単にレッテル貼りに用いられてしまう。『政府と違う考えを持っているから、沖縄は中国の手先』という、何の根拠もないネットのデマに基づいて攻撃されるという意味では、在日コリアンに対するヘイトと同じだと思います」

後編は7月29日(金)6時半公開

取材・文=碓氷連太郎