40万部突破の人気作! 新感覚の本格医療ミステリー!天久鷹央シリーズ最新作は、透明人間による殺人事件が発生!?

文芸・カルチャー

更新日:2019/2/5

※「ライトに文芸はじめませんか? 2019年 レビューキャンペーン」対象作品


『幻影の手術室  天久鷹央の事件カルテ』(知念実希人/新潮社)

見えないはずのものが見える時、それは大抵心が弱っている時だ。「幽霊」や「亡霊」など、きっと存在しえない。だが、こんなにも鮮やかに、その存在の正体を解き明かしてしまう物語も珍しい。

知念実希人著『幻影の手術室  天久鷹央の事件カルテ』(新潮社)は、天久鷹央シリーズの最新巻。この新感覚の本格医療ミステリーは、今までの鷹央の活躍を知る人も知らなかった人も惹き込まれてしまう作品だ。患者の症状から病気を診断する天才診断女医・天久鷹央と部下の小鳥遊優は、今までも、「河童に会った」と語る少年や「吸血鬼を見た」と泣きつく看護師、呪いの動画によって自殺を図った女子高生など、不思議な事件を解決してきた。医師でありながらも、超常現象ハンターと化してきた2人が今回立ち向かうのは、「透明人間」による殺人事件。本作も、怪奇現象を解き明かす過程のなかで、鷹央たちは、事件に隠された「病」を解き明かしていく。

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舞台は、西東京市にある清和総合病院。手術後のオペ室で、麻酔科医が死亡する事件が発生した。記録用のビデオに録画されていたのは、密室の手術室で、一人の麻酔科医が「見えない誰か」と必死に格闘し、その末に絶命する衝撃的な映像。そして、同室にいたのは、虫垂炎の術後の全身麻酔で身動きをとることのできない患者のみだった。その患者とは、天久鷹央が副院長を務める、天医会総合病院の研修医・鴻ノ池舞。選択研修では、鷹央の統括診断部を希望していた。警察は、舞の犯行を疑い、天医会総合病院でも彼女の解雇を検討し始める。舞の絶対絶命のピンチに、鷹央たちは診断医としての能力を武器に動き出す。

見た目は中学生にも見える童顔の天才女医・天久鷹央の愛らしさはこの巻でも変わらない。そして、謎を解き明かすためだったら手段を選ばず、部下の小鳥遊を事件解決のためにこき使うのも相変わらずだ。今回は、小鳥遊を一時クビとして、事件のあった清和総合病院にスパイとして派遣。病院の様子、容疑者扱いされている舞の病状を調査させるという無謀な手段に出る。

小鳥遊はといえば、そんな鷹央の姿に呆れながらも、鷹央の変化に喜びも感じている。鷹央は、超人的な頭脳を持つが、その代償として、他人の気持ちを読み取ることがとても苦手だ。これまでは、他人との接触を最低限にすることで、社会との折り合いを付けてきた。自らには理解不能な他人の感情に振り回されることを嫌い、論理という鎧で身を守っていた。だが、今回の事件では、もちろん、鷹央が「透明人間」という不可思議な存在に惹かれている面もあるが、研修医の鴻ノ池舞を救いたいという「感情」によって動いている。その変化を小鳥遊は嬉しく思い、自身も舞の無実を晴らそうと、必死にスパイ活動に務める。

「透明人間」による殺人という荒唐無稽な事件に、鷹央と小鳥遊はどんな結論を導きだすのだろうか。不可解だった事件が鷹央によって、ひとつの症例として象られていくのは、快感。そして、シリーズの元々のファンたちは彼らの成長を微笑ましく思うことだろう。この世にきっと解明できないことはない。新感覚の本格医療ミステリーをあなたもぜひ手にとってほしい。

文=アサトーミナミ

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