1000円の小さな手みやげが100億円の仕事につながった!? 成功する人の「手みやげ」術とは

ビジネス

公開日:2016/8/16

『100億円を引きよせる手みやげ』(越石一彦/総合法令出版)

 仕事でも私生活でも、相手に自分の思いを伝え、受け入れてもらうことは決して容易なことではない。どれだけ熱弁をふるっても、相手の心の中に壁があると、それに跳ね返されてしまうからだ。とはいえ、もし無理やり壁を壊そうとしたら、かえって警戒心を生んでしまい、余計に壁が高く分厚くなってしまう。今回は相手の心の壁を取り払うツールとして手みやげを使い、億単位の取引につなげた元証券マンが書いた本『100億円を引きよせる手みやげ』(越石一彦/総合法令出版)を紹介する。

本気なら計算やしたたかさは見えない

 著者は、かつて1万人を超える社員をかかえていた大手証券会社「山一證券」でトップセールスとして活躍した越石一彦氏。ライバル会社がひしめく証券業界で、社内にも多くのライバルがいる証券マンが、企業の社長や役員クラスの人に直接会うことは簡単ではない。そこで、相手との距離を縮めるツールとして手みやげをうまく活用することを思いついたのだ。

 とはいえ、初対面の相手に最初から手みやげを持参するわけではない。いきなり社長クラスと会おうと思っても無理なことはわかりきっているからだ。初めて手みやげを持参したときも、2カ月の間営業活動は一切せず、毎朝家の前を掃除する社長の奥さんにあいさつだけして帰っていた。すると、ある日奥さんから「私が会えるようにしてあげる」という言葉を引き出すことに成功した。もうすぐ社長の誕生日だという情報も込みで。この情報から越石氏が選んだ手みやげは、ナント社長が生まれた日の新聞のコピー。額縁に入れて手渡したが1000円もしない安い手みやげだった。「社長のことをよく知りたいと思って、お生まれになった日にどんなことがあったのかを知るために新聞をコピーしました。一緒に見てください」という言葉と共に。玄関先には同じ日にライバル会社の営業マンが贈った30万円もする高級ゴルフセットがあったが、社長は翌日越石氏を指名して2億円もの取引を結んでくれた。たった1000円の手みやげの方が高価なプレゼントよりも気持ちを伝えるのに役立ったのだ。

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気遣いは形にすることで伝わる

 越石氏は、本当に忙しくて話す時間どころか自分が食事をする時間さえ作れない中小企業の社長がいることもよく知っていた。だから、いくら自分が相手にとって有益な情報を持っているとしても、相手が不快に感じることはしなかった。

 昼食の時間だけが唯一話せる時間だとわかっている社長のところには、5種類の巻き寿司やいなり寿司2人前が1つの折箱に入った志乃多寿司の「五色詰め合わせ」を持参して、一緒に寿司をつまみながらランチの時間だけ話を聞いてもらった。また、東京と大阪を頻繁に行き来し、冷たい駅弁での昼食に飽きているある企業の重役にどんなものを差し入れたら喜ばれるかという相談を受けたときには、電車に乗る時間に合わせて、作りたてで温かい宇田川の「カツサンド」にメッセージを添えて渡すようにとアドバイスを送っている。いずれも売る側目線ではなく、相手がどうされたらうれしいかという発想から選ばれた手みやげだ。気遣いは形にすることで、より相手に伝わりやすくなる。

小さなつぶやきにヒントが隠れている

 相手が喜ぶ手みやげのヒントは、何気なくつぶやいた一言の中にあることが多い。例えば、「最近目が疲れる」という一言があったら、目によいと言われる「八ツ目うなぎ」を探して持って行き、「甘いものが好きなのに血糖値が気になって食べられない」という一言を耳にしたら、低カロリーで食物繊維豊富な「豆かん」を持って行くという具合だ。相手が「自分のことを本気で気遣ってくれている」と実感できる手みやげをチョイスしている点が心憎いところだ。

 このように、大きな仕事をする人ほど目先の利益にとらわれない。小さな種をまいて、大きく育てる努力をする。相手の立場で、今何が欲しいかを考えて手みやげを選んでいるからこそ、その手みやげが大きな実を結ぶための肥料になるのだ。実は、山一證券が廃業した際、越石氏の顧客の多くが、彼を心配して逆に手みやげを持って励ましに来たという。彼が持参した手みやげは億単位の取引を生んだだけでなく、人間関係という大きな実を育てる肥料にもなっていたのだ。

文=大石みずき