学校、福祉、そして親からも見捨てられた子どもたち――。少子化が叫ばれる一方で「居所不明児童生徒」が生まれているという現実

社会

公開日:2016/8/26

『ルポ居所不明児童―消えた子どもたち(ちくま新書)』(石川結貴/筑摩書房)

 2万4000人という数字が何の数字だかご存じだろうか。54年間、およそ半世紀の間にどこにいるかわからなくなった児童の累計人数である。この数字の大きさに、まさかと目を疑う人もいるのではなかろうか。さまざまなマスメディアを通して児童事件の多さを知っていても、この情報化社会である現代に“万”という数字の子どもが姿を消してしまっているという事実を考えがたいと感じる人も少なくないだろう。

 義務教育期間にありながら不就学である小中学生を指す「居所不明児童生徒(きょしょふめいじどうせいと)」は年間1000人以上。把握できずに数字に反映されていない子どもも含めるとそれ以上とも言われている。文部科学省が毎年実施する学校基本調査による行方不明児童の累計数2万4000人と並べてみるとあらためて驚かされる数字と言えるだろう。そんな知られざる「消えた子どもたち」の驚きの実態に迫った衝撃の1冊が『ルポ居所不明児童―消えた子どもたち(ちくま新書)』(石川結貴/筑摩書房)だ。情報化が進む昨今ですら、社会から存在を抹消されたような子どもたちの居場所を追うことは難しいと言われている。しかし、本書ではある殺人事件を起こした少年がこの居住不明児童生徒であったことから彼らの実態が明らかにされていく。

 取材に協力した少年は、本人の証言によれば実の母親から指示され17歳のときに祖父母を殺害した。幼い頃に離婚した母親と母親の愛人男性から虐待を受け、子どもながらに盗みや金策に走らされながら学校に行くこともなく生活を送っていたという。居所不明となっていく過程や居所不明児童となり生きていく少年の人生は、豊かな日本の社会に隠された闇の部分をえぐりだすような話ばかりだ。個人情報保護や時代に追いつけない行政システム、多様化し複雑化する問題に対応を鈍らせる救いの場となるはずの現場 、たくさんの大人の目の中で埋もれていく子どもたちの存在。少子化対策に躍起になっている日本の社会の裏では、今もその存在をカウントされない子どもたちがいるという現実があるのだ。

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 貧困にあえぐ日々を送っている人の場合、食や居場所を求めて住まいを転々としてしまうケースは少なくない。何度も引っ越しをする中で移転手続きを怠ったり、夜逃げなどの理由から故意に住民票を残して移動してしまったりすると、行政とのつながりがまったくなくなるため、居所を追うことが不可能になるという。さらに、住民票が残っているときは居所不明者として扱われるが、消除されてしまったら居所不明者として計上しなくてもよいということになるらしい。住民登録は、役所の調査で居住の事実がないことを確認さえできれば職権で抹消できてしまうという事実も本書で初めて知ることとなる人もいるのではないだろうか。

 著者はいう。「そもそも、子どもはみずからの意思で『消えた』のではなく、なんらかの理由で『消された』のだ」と。子どもたちは消えるどころか、むしろ消されたくないと必死に救いを求めていた。この過酷な事実に胸が締め付けられるような思いを持ちながらも、学校現場、教育関係者、教育委員会、文部科学省とさまざまな方面から取材を重ねてきた著者が、法律や行政の力では救うことができない現実、壮絶な幼少期を送る子どもたちの現状を明らかにしているがこのルポである。読み進めていくうちに、当初に目を疑った2万4000人という数字と子どもたちの実情が、いつの間にか他人事ではないという気持ちに変化していくのを感じるのではないだろうか。

 報道などで児童相談所や学校の関係者らが「判断に間違いはなかったが残念に思っている」と述べる会見を見て気分が晴れないと感じている人、ドラマの中の出来事のように遠目からニュースを見ていた人、関心を持っていたが方法がわからなくて実情を知る機会を失っていた人など。この機会に本書で「居所不明児童生徒」の実態とその背景を知り、これから生まれてくる子どもたちと共に、消えていった子どもたちに対しても心と意識を傾けてみてはいかがだろか。本書は「消えていった子どもたち自体」の存在だけでなく、そのような事実があること自体を知らない人が増えていることへ警鐘をならしている。

文=Chika Samon