なぜあなたは「そっち」を選んだの? 人生で幾度も重ねていく「選択」について聞いた珠玉のインタビュー集

暮らし

公開日:2016/8/28

『選んだ理由。』(石井ゆかり/ミシマ社)

 就職、結婚、進学と、人生には様々な「わかれ道」がある。「あの時、こうしていれば」と後悔することもあるが、端から見て「どうしてそっちを選んだの?」と思わず聞きたくなってしまう人生もある。

選んだ理由。』(石井ゆかり/ミシマ社)は、ごくごく一般の人が人生の岐路において、「そっち」を選んだ理由を、占いライターの著者がインタビューし、考察したことをまとめた「人生の選択を考え直すきっかけ」になる一冊だ。

 著者の石井ゆかりさんは「12星座」シリーズ(WAVE出版)が120万部のベストセラーになるなど、占いライターとして有名な方。本書はwebマガジン「みんなのミシマガジン」において、2014年から2015年にかけて連載された「石井ゆかりの闇鍋インタビュー」の中から抜粋されたインタビュー記事をまとめている一冊である。

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 このインタビュー、実は少し変わっている。インタビュアー(石井さん)は、インタビュイー(取材相手)の情報を一切知らないまま、初対面で出会い、インタビューを行う。通常なら、相手の情報を聞き手が勉強しておくのが普通なのに、予備知識がないままの取材を敢行する。

 あらかじめ質問したいことを考えられないので、「幽霊コワイですか?」なんて質問をお坊さんに聞いたりしている(これ、ぶっつけ本番じゃなかったら絶対聞かないことなんじゃ……)。

 こういった予備知識がないからこその「質問」が率直で面白い。加えて、著者の「考察」がとても「納得」できる。取材相手が話す人生は「事実起こったことだけ」を語っている場合が多いが、その出来事に対して、石井さんの深い考察が入る。

 例えば、「幽霊コワイですか?」と尋ねた方は中川さんという僧侶兼イラストレーターという異色の肩書を持つ男性なのだが(幽霊は怖くないらしい)、彼が「無数の世界が同時並行して進んでいる」「僕たちはその可能性の中のたった一つを生きている」といった、やや宗教的なお話をされた時にも、石井さんは「岐路」についての考察をしている。

「あの時、別の道を選んでいれば」と後悔することはあるが、「そっちを選んだ自分もいる」と思うことで「景色が少し変わる」。自分は偶然「こっちの道の担当」になっただけで、他の世界では、自分は違う道を選んでいる。「そうイメージしてみると、なんだか少し、ラクな気分になる」と述べている。選択に「正解」と「間違い」があったのではない。両方、選択した自分がいて、その先の分岐点でもまた両方に行った自分がいる。どんどん分岐しても「選ばれなかった選択肢」はない。すべての選択肢がちゃんと選びとられている。

 これは何もスピリチュアルなことを言っているわけではない。

「このイメージには、不思議な力がある。受け入れがたい現実を、すうっと受け止めさせてくれる力がある」と述べているように、「あぁすればよかった!」と苦しんだ時に、その「イメージ」が自分を楽にしてくれるという「物の考えよう」のことを言っているのだ。

 人生には様々な岐路があり、後悔することは多いだろう。その時に、この「イメージ」をしてみると、なるほど、心が軽くなるような気持ちになる。

 また、「株式会社はてな」(はてなダイアリーというネット上の日記サービスを提供している会社)の人事部に勤める平村さんという女性へのインタビューでは、「『未来には、今とは全然違うことをしているのかも』と思っていたい」。「『今だ!』」と思ったら、ぽいって飛び出せる自分にしておきたいんです」という彼女に、またもや石井さんの考察が光る。平村さんの考える「本当の自由」とは、「なにものにも縛られないでいることじゃない」「いつでも何にでも縛られることができる」ということではないかと。

 うーん、深い。あまりに小難しい考えは「??」となってしまうが、石井さんの場合は理解と納得ができるので、本当に胸に迫る。

 その他、本書ではカフェのマスター、合気道の先生、カメラマン、女子高生、医学研究者など、様々な分野の方にインタビューしている。何度も「深い!」とうなった珠玉のインタビュー集だった。

文=雨野裾